第200話 ネコカフェ状態
文字数 1,981文字
僕は雑貨屋さんで大量の無職のツボを買った。三百個だ。これでとうぶん、無職のツボには困らないだろう。
「あとは銀行に行って、マーダー神殿で転職もして、そうそう。ギルドに寄付もしとこうかなぁ」
何しろ、別荘からお姫様を救って、そのあとすぐに大会で準決勝して、その夜は疲れてすぐに寝ちゃったから、まだひろった二十二兆円、持ち歩いてるんだよね。気になって、気になって。
銀行に二十兆円預けた。
これで僕の老後も安泰だ。この世界にいるときは、だけど。
「はい。じゃあ、三千億円寄付ね。貧しい人たちに使ってあげてよ。とくにエレキテルのそばのスラム街の人たちに」
受付のお姉さんにお金を渡す。すると、お姉さんは言った。
「あのスラム街でしたら、ワレスさまの提言で、衛生面や防御を考慮した街として再建するため、すでに兵士が派遣されていますよ。ですが、街づくりの資金を提供してくださるのは大変ありがたいことです。復興が早まることでしょう」
「よし。じゃあ、さらに二千億寄付だ」
「ありがとうございます」
アジたちの故郷だもんね。住みやすい、いい街になってほしいな。
最後に転職だ。
マーダー神殿へ急ぐ。
「やっとツボが手に入ったから、ネコたちにも新しい職業をおぼえさせられるね」
ニャーニャーとついてくる猫四匹。可愛いなぁ。
でも、蘭さんの目が……。
「かーくん。たしかに猫たちは可愛いですよ? でも同じモンスターばっかり四匹もつれ歩くのはムダじゃないですか? 馬車に乗れる人数もかぎられてるし」
「ええー! 可愛いよ? ネコりん可愛いよ? どこでもネコカフェだよ? 動くネコカフェ〜」
「まあ、可愛いですよ。でも——」
「お願い。まだいいでしょ? 馬車にゆとりあるし」
「……わかりました。ゆとりがあるうちだけですよ?」
うう。釘を刺されてしまった。ということは、ネコりんはどの子か一匹、多くとも二匹を優先的に育てないとダメか。子白虎になれる白ネコりんのトイと、トイと仲よしのキジトラのタイガがいいかな。
「じゃあ、トイとタイガは盗賊ね。あと、封じ噛みができる市松人形のツボがもう一個あるんだ。モンスターにおぼえてもらうのがいいと思う。ロランは誰がいい?」
「大会のとき、ぽよちゃんが使ってた技ですね。今回みたいに二手にわかれたときにも使えそうな技だから……ケロちゃんなら、どうでしょう? ケロちゃんは石化攻撃がメインです。石化の効かない相手に対しても使える技があるといいですね」
というわけで、ネコりん二匹とケロちゃんは決定。
アジがなんと盗賊団育ちなのに、盗賊になれなかったので、これもツボで盗賊。
「ああ、たぶん、ラフランスさんも盗賊なったことないかもだね。後衛援護はしてもらいたいから、弓使いになるために、盗賊のツボとっとかないと」
とつぜん、猛がつぶやく。
「……かーくん。兄ちゃん、格闘王になれるみたいだ」
「えッ?」
「生来特技の武術ってやつのランクが5にあがってる。格闘王になれるって」
ふう……神様は不公平だよ〜。猛ばっかり、強い技が使える。
「じゃあ、なってよ」
「ああ」
猛は格闘王になった。
そうか。兄ちゃんも反射カウンター使うようになるんだ。ますます強くなるねぇ。
蘭さんは聖騎士マスター中だから、いいとして。
「アンドーくん、まだ大技がないよね?」
「そげだに。トドメはHP減っとらんと効果出んしねぇ」
「じゃあ、アンドーくんに羊飼いのツボあげる。毛刈りをおぼえてほしい。攻撃しながら相手の防御力けずれるのはオイシイ」
「だんだん。ありがとう」
僕はぽよちゃんを何にさせるか考えた。ぽよちゃんは前の特訓のときに、暗殺者にまでなったから、もうツボを使わずになれる職業はない。商人のツボが一個だけ残ってるから、これにしようかな。それか、詩人。
「詩人をおぼえたら、ぽよちゃんは騎士になれるね。じゃあ、詩人かな」
と、そのときだ。
僕は気づいた。まだもう一個だけ、なれる職業がある。
「ああッ! ぽよちゃんが……」
「どうした? かーくん。困ったときは兄ちゃんが助けてやるぞ?」
「いや、困ってないけどさ。どうしよう。ぽよちゃんがバーサーカーになれる」
「バーサーカーか。あれは味方も攻撃してくるんだよなぁ。なろうと思えば、兄ちゃんもなれるけどな」
「えッ? ヤダよ? 兄ちゃんの攻撃力で味方襲ってきたら、殺人鬼じゃん」
「だから、なってないだろ」
「あっ、よく見たら、僕もなれる」
すると、蘭さんとアンドーくんも口を出す。
「バーサーカーですか。僕はなれません」
「わはなれぇよ?」
アンドーくんと言えば、暗殺者。
「そうか。暗殺者マスターが就労条件か」
だからって、バーサーカー……。
でも、こういう負の職業って、たいていマスターすると、そのあとすごくいいことがあるんだよな。
どうする? まさかのバーサーカー祭りか?