第26話 神と紙
文字数 1,324文字
ああーッ!
蘭さんの体力が5に! 5だよ? 5。
レベル1のスライムなみだ。いや、スライムよりはマシなのか?
「えーと、力は五万になってる。でも、体力が五に……」
僕は気がついた。
数字の5を打った直後に、スマホの電源が落ちた。ということは、僕の小説を書くで、ステータスを91から5に下方修正したことになってるんだ。
「ご、ごめん。ロラン。タイミングの悪いとこで電源落ちちゃったから……」
「なおせないの?」
「スマホの充電ができるようになれば、また書きなおせるよ」
たぶんだけど、小説を書くの技を使ったときに、通常の消費量より過分の電力が必要になるんだ。
これまで、あんまりそう感じたことがなかったのは、書きなおしてた数値の差異が少なかったからだろう。ほんの10とか、多くて100だった。それをいっきに五万も足したもんだから、いっきに電力20%も使ったんだ。
あと、僕自身のステータスをなおすには、さほど電力使わないんだろうな。
「ああ、せめて、50まで打ててれば……あとゼロ一個。贅沢言えば二個」
泣いても笑っても、今の蘭さんの体力は5だ。しかもスマホは電力ゼロになり、充電するまで、もうまったく打てない。
攻撃力は神。
防御力は紙の勇者……。
めっちゃ、デンジャラス!
蘭さんはしばらく呆然としていた。
ムリもない。僕が蘭さんの立場だったとしても、この世から逃げだしたくなる。
「ど、どうする? いったん街に帰る? それとも、ロランは馬車のなかで待ってる?」
蘭さんは大粒の涙をこぼしながら首をふった。
かっ……可愛い。
「行きます。だって、その機械が充電できないと、僕は一生このままなんでしょ? それなら、僕はやるよ!」
「わかった。じゃあ、行こう」
それにしても、紙防御の勇者をどうやって守るべきか。
もとの蘭さんの体力は91。今は5。86もマイナスになってしまった。
たしかに僕らのパーティーはみんな、いい武器防具を身につけてる。
蘭さんのよろいは勇者の最強装備だ。精霊王のよろい。防御力220。盾やブーツ、装飾品の数値も加算される。
とは言え、それらの防具をつけて体力の96だったときにさえ、鉄クズのちらばる攻撃で、蘭さんは180前後のダメージを受けた。
これが約三割り増しになる。ということは、一回のちらばるで240ていどのダメージを……。
僕はゴクリと息をのんだ。
危ない。ちらばる一回で残りHPが40弱。いっしょに出てきたほかのモンスターの攻撃が来たら、もう戦闘不能だ。
「みんなでロランを守ろう! 外のメンバーはロランのほか、僕、バラン、シルバン。なんでか知らないけど、ミニコもいっしょに出てられるから、ミニコも。バラン、シルバン、ミニコは『守る』が使えたね。とにかく、戦闘中、ロランを守って。守るは一回選択すれば、その戦闘が終わるまで自動で発動するから、そのあとは身を守る行動をとれば、自分のダメージを半減できて、ロランの負傷をふせげる。攻撃は僕とロランでやる」
蘭さんは申しわけなさそうに頭をさげる。
「お願いします……」
というわけで、僕らは神と紙になった蘭さんをかかえて、研究所のなかへ入っていった。
お願い。神様。鉄クズ、出さないで。