第235話 職神戦5

文字数 1,490文字



「ねえ、猛。教えてくれる?」
「うん。いいぞ。百億くれ」
「…………」

 僕は兄のおもてをかえりみた。無邪気にニパニパ笑ってる。白い歯見せてさ。

「マジで?」
「うん。マジ」
「弟が困ってるのに、お金とるんだ?」
「いや、だって、真剣勝負に私情をはさんじゃ悪いかなと思って」

 くっ。一理ある。
 今までさんざん助言してくれてたのに、肝心のとこでは金をとる。

「まあいいよ。百億ね。はい!」
「ははは。で、お願いって?」
「職神さまの幸運の数値っていくつ?」
「おおー、五万超えてるな。スゴイ。スゴイ」
「五万か。なんか装備品とか、特技とかで、倍増するようなものないよね?」
「ないな」
「絶対?」
「絶対だ」
「まちがってたら、さっきの百億返してもらうよ?」
「絶対ない!」
「そっか」

 なら、幸運は僕のほうが完璧に上。賭けてみるを使えば、必ず勝てる……はずなんだけど。

 ああ、どうしようかなぁ?
 ギャンブル要素のある技って、イマイチ信用できないんだよなぁ。この残り一撃で勝敗が決するってときに、わざわざ全滅の可能性のある不確定な技使う?
 うーん。堅実で慎重な僕としては、どうしても不安がぬぐえないんだよな。

 じゃあ、あとは小切手を切るだ。
 あれ? 商神の特技の黄金の嵐ってやつ。一回の行動数で小切手を切るを三回できるって書いてある。よし。これなら、一回めでようすを見ながら、額をあげてくことだってできるぞ。

「やるよ。黄金の嵐ー! じゃ、一回めはとりあえず、そうだなぁ。一億円で!」

 よし。来たぞ。ラッパが鳴り響き、ダカダカといつもの靴音が虚空をふんでやってくる。

 一億だよ? やれるんじゃないの?
 ワレスさんの回避率はすごかったけど。
 特別試合のときのワレスさんの器用さは、たしか二万か二万五千だった。

 ん? ということは?

「猛。職神さまの器用さは?」
「四万!」

 しまった! じゃあ、ほとんどかわされる!

 ワアーッという突撃の声がやむと、案の定だ。職神は余裕ぶっこいて腕なんか組みながら立ってる。

「むう……じゃあ、二回め。百億円!」

 ラッパの音。ふみならされる軍靴。ワアワアと(とき)の声。

 でも、ダメだ。やっぱり、立ってる。
 うーん。ワレスさんのときの悪夢ふたたび。

「さ……三回め。一兆円!」
「一兆円! そなた、超金持ちではないか! わしにくれんか?」
「オバケがお金もらって、どうするんですかッ?」
「いやなに、生前は修行にあけくれ、遊びの一つもせなんだので、そのことばかりが悔やまれてのう。キャバクラなるものに行ってみたいと思い……」
「そんな神さまイヤです!」
「そなたが負けたら、わしに一兆円くれい!」
「えーい、どいつもこいつも!」

 あげてもいいけど、オバケに来られても、キャバクラのお姉さんたちだって困るよ。

「みんな、やっちゃってください!」
「行くぞ! 突撃ーッ!」

 あっ、やっぱり、号令はユージイだ。一兆円だからだろうか? なんか、あきらかに見習い兵士っぽい少年……というか、鼻水たらした幼児や、台所係の女の人や庭師っぽいのや、子守の女の子とか、変なのがいっぱいまざってる。たぶんだけど、ボイクド城の住人、総出だ。

「キャー! お金ー! お金ー!」
「あたしのよ!」
「わーん。お母ちゃーん!」
「はいはい。順番に。はいよ。とったら殴って。はい、これ。はい、あんたも」

 えっ? ホムラ先生がみんなにお金をふりわけてる。そして、一部を自分のふところに……。

 なんかもうお祭りだ。
 みんなが喜んでくれるんで、それだけで僕は満足——ってわけにはいかない!

 やっぱり、立ってるんですけど? そうか。ふんばるか。また、ふんばったのか!
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