第205話 ヒノクニの王様のおふれ
文字数 1,546文字
さて、ようやくヒノクニへついた。今回は魔法で来れるから楽ちんだねぇ。
「なんだろ? なんか人がさわいでるね」
「触書きじゃないか?」
王様のおふれのことだ。今どき、おふれって、ここは江戸時代か!——って、そうだった……なんちゃって中世ヨーロッパだっけ。
「えーと、何々?」
板に張り紙がして木の棒で立てられてる。紙には日本語で、こう記されていた。とは言え、原文は達筆すぎて読めない毛筆だけどさ。この世界では読めるんだよな。
「モトヤナギ将軍が
そっか。お姫様を誘拐したんだもんな。建前、病気を理由にして穏便にすませてもらったのか。じゃないと死刑もありうるよね。
それにしても、よかった。じゃあ、これで晴れてタツロウとセイラはこの世界でも結ばれるんだ。二人が幸せになってくれたら僕も嬉しいなぁ。
「ちょっと、ギルドよってみてもいい? シャケも探したいし」
「そうだな」
「シャケ、いいかげん、戻ってきたらいいのに」
ギルドへ入るけど、三村くんらしい人物はいない。
僕は初めて酒場のカウンターへ行ってみた。冒険者同士がメンバーを募るのに利用できるのが酒場だ。
「すいません。ここにシャケっていう冒険者が登録されてないですか?」
「へえ? シャケはんどすえ? 今のところ、そないな人はいはりまへんなぁ」
ここのバーテンダーは舞妓さんだった。ギルド受付の舞妓さんとは別の人のようだ。振袖でシェーカーふるんだろうか? カッコイイ。
三村くんはもうこの街にはいないのかもな。ゴドバが逃げだしたあとだし……。
「シャケ、いないね」
「…………」
アジはうつむいてる。
自分の兄のことだもんね。心配に決まってるよね。
「シャケ兄ちゃんは、ゴドバを追っていったんだ。きっと」
「それなら、必ずまた会えるよ。だって、僕らもアイツを追っていくんだから」
「うん。おれ、それまでに、もっともっと強くなる」
「それがいいね」
あとは情報屋だ。
妖艶なオベッカさんが出迎えてくれる。やっぱり、この一族いいなぁ。サンディアナの街のルベッカさんから、全員ならんでみてほしい。
「おや、坊や。どうかしたのかい?」
「ヒノクニのどこかに名人墓場ってとこがあるって聞いたんです。僕ら、そこに行ってみたいんですよね。どこにあるんですか?」
オベッカさんは笑って手をさしだす。
「千円」
「はい。どうぞ。あっ、小銭がないんで、十万でいいですか? お釣りはいりません」
「ふふふ。今日も気前いいんだねぇ」
ああっ、あごの下をナデナデされるネコりんの気持ちがわかる。
「名人墓場だね? ヤマトから北東に半日行くと、あの世につながってるってウワサの洞くつがあるんだよ」
「ウッ!」
洞くつ! 墓場! 暗い! 怖い!
「その洞くつを通りぬけると、海岸に出る。深い谷のようになっていてね。そこが名人墓場さ。名人たちの魂がたくさん、さまよってる。でもね。気をおつけ。奥へ行くほど、強い魂が待ちかまえてる。最奥の魂はこれまでに何人も強者が挑んだけど、誰一人、倒すことができなかった。みんな、命からがら逃げだしたんだって話さ」
「……そうなんですか」
そう言えば、ずっと前にどこだったかで、世界のどこかにホラーっぽいモンスターしか出てこないお化け屋敷みたいなダンジョンがあるって聞いたことがある。たぶん、この墓場のことだ。
「最奥の魂……いったい、誰なんだろう?」
「人間じゃないかもしれないぞ?」
「オバケ? オバケなのっ?」
「それは全員、オバケだと思うけど、モンスターかもしれないって話さ」
もう全員オバケってとこがイヤ!