第206話 幸せいっぱいのタツロウ?
文字数 1,516文字
ギルドを出ると、お城から迎えが来ていた。先日のお礼がしたいという。
ダンジョンまで半日かかるっていうから、ほんとは早く出発したいんだけど、しょうがないか。
僕らは兵隊さんたちにつれられて王宮へ行った。
また、この前の部屋だ。
武闘大会もぶじに終わり、お姫様は戻ってきたし、めでたしめでたしのはずなんだけど、待ってたタツロウや王様の顔つきが険しい。
「かーくんよ。先日は我が姫をよくぞ救ってくれた。礼を言うぞ」と王様は言うんだけど、謝礼にしては口調が硬質。
「望みの品があればなんでも申すがよいぞ」
「いえ、品物は今のところないです。もしも今後、困ったことがあれば、そのとき力を貸してくださいますか?」
「よかろう」
僕は彼らの顔をうかがった。
ほんとは王様、そんなことを言いたいわけじゃないと思うんだよね。
「……何かありましたか?」
たずねると、思ったとおりだ。
「じつは、姫がふたたび、さらわれた」
マジっすかーッ?
おとつい、助けてあげたばっかだよね? 蘭さん以上のさらわれ癖だー!
「まさか、またタツロウさんのお兄さんに?」
「……かどうかはわからぬ。ただ、曲者は北東の方角に向かったらしい」
北東……それは今から僕らの行く方角だなぁ?
思いだしたぞ。そうだ。この前、セイラを救出したとき、あのクズ男、なんか変なこと言ってた。あの女を使ってなんとかかんとか? で、別荘の外には、ゲンチョウがいたし……。
そこはかとなくイヤな予感がする。
「おそらく、曲者は名人墓場へ行ったのではないか。あの場所には我が王家の代々の墓がある」
うう……墓場。
いや、まあ、どうせ今から行くとこだったし、ついでと言えば、ついでなんだけど。
「ついては、そなたたち。姫を救いに行ってはくれぬか?」
やっぱりね。そうなるよね。この流れ。
「今回は危険は場所ゆえ、タツロウもそなたたちに補佐としてついていく。どうだ? 頼まれてはくれぬか?」
僕は蘭さんを見た。
蘭さんはうなずく。
「わかりました。参ります」
「おおっ。では、頼んだぞ。必ずや姫をつれ帰ってくれ」
まあいいや。タツロウも来てくれるって言うし、それは楽しみ。タツロウは強いよね、きっと。一度は武闘大会で優勝したんだし。
ん? やっぱりまた男……女の子が仲間にならない呪いが……?
僕らは王宮を出た。広場に置いた馬車をとりに行くと、そこで思いがけない人物に出会う。
「ダルトさん。キルミンさん。お出かけですか?」
「情報屋からネタをしいれてな。ゲンチョウが——スリーピングが名人墓場へ行ったらしい。わしらは今すぐ追うんだよ」
「スリーピングが?」
「うむ。今度こそ……」
仲間のかたきをとるつもりか。二人は馬に乗って行ってしまった。いや、あの二人だけで強敵がいるっていうダンジョン、危ないって。
「このタイミングでスリーピングが名人墓場に。やっぱり、そうだ。タツロウさん。残念だけど、セイラ姫をスリーピングにさらわせたのは、あなたのお兄さんです」
「……そうか。兄上が」
「急ぎましょう。名人墓場へ」
「ああ」
タツロウはその場所の正確な位置を知っていた。
馬に乗って先導する。
馬車の外のメンバーは、猛、蘭さん、バラン、ケロちゃん。後衛にたまりん。
僕はバーサーカーだからって、前に出させてもらえなかった。差別だ……。
でも、猛と蘭さんがいるから、戦闘はあっというまに終わる。NPCでタツロウもつくし。
おかげで、半日かかるというその場所に、三時間半で到着した。半日の定義が五、六時間だとしたら、二時間ばかり早く来ることができたわけだ。
「ここか。ここが名人墓場……」
なんとも不気味な洞くつが、暗い口をあけて僕らを待っている。