第306話 とつぜんの異変

文字数 1,341文字



 残る四天王は義のホウレンと、裏切りのユダ。
 ユダは兄ちゃんのことなんだよな。
 だから、魔王軍にもなんらかの動きがあるのは確実なんだろうけど。兄ちゃんがいなくなると、つまんないな。

「かーくん。またすぐに会えますよ」

 蘭さんがなぐさめてくれる。
「僕らが魔王を倒せばいいんです。ね?」
「そうだけど」

 暗殺者スリーピングは、義のホウレンの手下だったよね。ヤツら、三人の巫女姫を狙ってるみたいだった。次はホウレンと対決かな。
 まさか、兄ちゃんと争うなんてこと、絶対にないしね。

 魔王かぁ。どんなヤツなんだろうなぁ。
 猛は会ったことあるのかな? 聞いとけばよかった。

 買い物もした。オーク城でモンスター職への転職もできるようになった。これでまた僕らの新しい拠点が増えた。

 ワレスさん(正確にはホムラ先生)が、この島への航路を開発してくれたら、これからは心置きなく何度も行き来できるしね。

 ところが、そんなふうに、のんびりスローライフを楽しんでたやさきだ。
 異変はとつぜん始まった。
 ゴゴゴ、ゴゴゴとやけに地面がゆれる。

「……地震かな?」
「クピッピ、コピク、クピー」
「あっ! 訳してくれる人がいない!」

 村長さんの言葉がわからないじゃないか。

 すると、バランが微笑した。
「この島で地面がゆれることなんて、今までなかったと言っています」
「そうなんだ。じゃあ、このゆれはなんだろう?」

 蘭さんたちも不安そうな顔つきだ。

「地面の奥深くで何かがあばれてるみたい」
「でも、ゴドバはもう倒したよ?」
「魔物製造工場も壊滅したし、危険なものは何も残ってないはずなんですが」

 んんー、なんだろう?
 何かが心にひっかかる。
 まだ何かが残ってたような?
 あとでワレスさんや蘭さんに報告しようと思ってたんだけどなぁ。

 僕らの会話を聞いていたアジが、急に言いだした。

「じつはさ。おれ、見たんだけど」
「何を?」
「見間違いかなぁと思ったから、あんまり気にしてなかった。けど、あれって、もしかしたら……」
「だから、なになに?」
「昨日、ゴドバを倒して、みんなで灰をひろってたよね?」
「うん」
「あのときさ。すごくちっちゃい人間が、灰のなかから走っていったような……」
「ちっちゃい人間?」
「うん。コビットくらい小さい」
「ふうん? なんだろう?」

 この島にいる小人はノームだけだ。コビットたちの生息地はマーダー神殿近くの山のなかなんだよね。
 クピピコは船を大きくしたあと、僕らのパーティーに戻ってきたけど、灰のなかにまぎれこむはずないし。

「見間違いじゃないの?」
「うん。そう思ったんだけど、背中に羽か生えててさ。なんかこう……」

 背中に羽? 猛は小人じゃないよ? いや、違うか。もう一人、いたよね。コウモリっぽい羽が生えたヤツ。

 僕はアジの目を見つめた。
 違う。違うと言ってくれって気持ちをこめたんだけど。

「……なんかさ。ゴドバっぽかったような」

 ああっ、やっぱり!

「ゴドバ?」
「うん。十センチのゴドバ」

 うッ。まだ生きてたのか?
 しつこいな!

「復活の特技がまだ使えたんだ!」
「たぶん、あのときステータスから消えてなかったから、最後の一回なんじゃない?」

 大変だ。もしそうなら、この地震はゴドバの仕業かも?
 すぐに倒しに行かなくちゃ!
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