第132話 あと一勝、たまりん
文字数 1,743文字
「ぽよちゃ〜ん。スゴイよ。ファイヤーブレスもよく思いついたね。いい判断だったよ」
「キュイキュイ、キュウ」
猛の翻訳機能が作動した。
「クピピコが教えてくれたってさ」
「そうか。クピピコもがんばってくれたんだね。ありがとう!」
「クピっ」
やっぱり、バランがくぽちゃんに乗ってるのには理由があるんだな。小人族が御すことで、ぽよぽよの能力を最大限にひきだすことができるんだ。
「じゃあ、これからはクピピコにずっと乗っててもらおうかなぁ。大会じゃなく、ふだんの戦闘でも」
「クピクピ、ピラー」
たぶん、『よかろう。参る』と言った。ピラーがわかるだけで、ずいぶん会話がはずむな。
「これで二勝だね。あと一勝だ。たまりん、よろしくね」
ゆら〜りと、たまりんはゆれた。
たまりんは敵からの通常攻撃がきかない。クリティカルさえキメられなければ、ほぼ相手の攻撃をかわすことができる。だけど、相手との相性はあるんだよな。ブレスや魔法攻撃はきいてしまうからだ。対戦相手が戦士系ならいいんだけど……。
「副将戦です。両チームの副将は位置についてください」
ゆらゆら、ゆらり。
静かに進むたまりんの前にやってきたのは——マズイな。魔法使いの女の子だ。と思ったら、向こうの大将が呼びとめた。
「ここで赤組から申請がありました。副将交代です。大将のドレイクさんが副将になります」
えっ? 大将が? なんで?
むこうの大将は見たところ、軽よろいの戦士系だ。よっぽど幸運値高くて、クリティカル連発するのかな? ふつうに魔法使いが相手のほうが有効だったと思うんだけど。
「では、副将戦です。始めッ!」
なんとなく不安な感じ。
わざわざ大将から副将におりて出てきたのは細身の男だ。短く髪をかりあげたイケメン。見ためはさっきの重騎士のほうがずっと強そう。
だけど、対戦開始直後だ。
男は低くつぶやいた。
「凍りつけ」
あッ! 氷属性最強魔法だ。
なんで戦士が?
よく見たら、イケメン戦士の職業、大魔道戦士ってなってる。大魔道戦士! 魔道戦士の上に、まだそんな上級職があるのか。
「たまりん!」
たまりんは防御服の妖精の羽衣の効果で、魔法ダメージを30カットできる。もともと知力が高いんで、魔法耐性も強い。だけど、そのたまりんに対して、いきなり110のダメージをあたえた。
イケメン戦士はそれでも不満足な顔つきだ。
あとで知ったんだけど、大魔道戦士の職業特性に『魔道域』っていうのがあって、自分の発するすべての魔法の効果が1.3倍になる。ふつうなら、もっと行けたはずって気持ちがあるんだろうな。
男は続けて、燃えつきろと小波を使った。小波は中ていどの威力の全体攻撃魔法だけど、たぶん、たまりんの苦手な属性をさぐってるんだと思う。それぞれ、90、30のダメージ。
たまりん、素早さが70もないからな。69だ。精霊のアミュレットの効果で20プラスになってるけど、それでも実質89。やっぱり素早さって大事。せめて、たまりんにも流星の腕輪があったら……。
イケメン戦士はそこで行動をやめた。三回攻撃か。素早さ270から300のあいだくらいってことだね。
たまりんはこれで合計220のダメージだ。最大HPが264。残り44。回復しないと、次のターンにはやられてしまう。
だけど、たまりんはポロンとハープをひいた。
ああ、何してるんだろ。たまりんの素早さじゃ一回しか行動できないのに。
と思ったのに、なぜか、たまりんは分裂した。パリピでおぼえた特技だな。自分の分身を作った。変だな。パリピのときは素早さに関係なく、仲間呼びを自動で一回できるみたいなんだけど、今は詩神に戻ってるんだけどな。
とにかく、これで、たまりんの行動は終わりだ。
ああ、イケメン戦士の攻撃が来るゥー。
「凍りつけ、凍りつけ、凍りつけー!」
思ったとおりだ。凍りつけ三連続!
終わった。たまりん、撃沈だ。すでに火の玉だから死亡してるのかもしれない。これ以上ダメージをくらって戦闘不能になったら、この世から消えてしまうんじゃないだろうか? 心配になる。
たまりん、無事か?
でも、氷の柱が消えたとき——
「あれ? たまりん、生きてる」
たまりんも分身たまりんもだ。なんか、ピンピンしてるんだけど?