第133話 荒ぶる火の玉

文字数 1,809文字



 いったい、何が起こったんだ?
 さっきのターン、たまりんは凍りつけで110のダメージを受けた。多少のランダム数値は出るとしても、二撃くらえば、確実にダメージは二百以上になるはずなのに。

「あっ、そうだった! 月光のセレナーデだ。たまりんのハープ、ひくだけでいろんな装備品魔法が発動するだよね」

 1ターンの効果は月光のセレナーデ。奏者の知力の三倍までの攻撃魔法を受けてくれるバリアだ。

 たまりんの知力はマスターボーナスや就労補正をこみで、396。これの二倍だから、1188までのダメージを吸収してくれる。

 イケメン戦士の凍りつけ三連発が330ダメージだから、それでもまだ858のバリアが残ってる!

 ポロンと、たまりんはまたハープをひいた。イケメン戦士が一瞬、よろめく。
 あっ、きいてる? なんで?

「あっ、そうか。2ターンめのハープの魔法が『小悪魔のワルツ』なんだ」

 小悪魔のワルツはハープの攻撃力ぶんのダメージを相手にあたえる。プラス魅了の効果が50%。

 イケメン戦士はつかのま、フラフラしてた。でも、自分の足をこぶしで叩いて、なんとか耐えしのぐ。残念。魅了はかからなかったか。

 そのあと、たまりんはなんと、後衛にさがった。前衛には、たまりんの分身がいて、さらに分裂した。ああっ、火の玉増殖が始まった……。

 イケメン戦士の番だ。
 イケメンは歯を食いしばってる。まさか、このユラユラ火の玉に、ここまで苦戦するとは思ってなかったんだろう。

「みんな、凍りつけー!」

 ついに大技を使ってきた。氷属性最強の全体攻撃魔法だ。
 たまりんたちを包む青いオーラが、吹きすさぶ氷のつぶてを受けとめてくれる。

 なんで急に全体魔法にしてきたんだ? 威力は単体魔法の凍りつけと同じなのに。MPのムダじゃないか?

「かーくん。前衛にたまりんの分身が二体いる。全体魔法なら、バリアは二倍のダメージを受けることになるんだ。つまり、あいつ、バリアに気づいたんだ。このターンでバリアを消しさるつもりだろ」
「なるほど」

 さすがは兄ちゃん。
 猛の言ったとおりだ。イケメン戦士はそのあと二回、みんな凍りつけをくりかえした。

 でも、220ダメージかける3で、それでも660ダメージ。月光のセレナーデのバリアはまだ200ほど残ってる。

 いや、逆に言えば、次のターンでバリアは消えるのか。

 たとえば、三連続『みんな凍りつけ』を使えば、最初の二回でバリアがなくなり、次の魔法攻撃で前衛のたまりんの分身はすべて消滅する。たまりんがHP減ってる状態で分裂した仲間だからね。前衛がいなくなったら、後衛が強制的に前衛に出されるから、たまりんが前になる。
 たまりんの残りHPは40弱。次のターンで着実に終わる。

 けど、待てよ。
 詩神のハープの3ターンめの魔法って、たしか?

 たまりんはハープをひいた。
 ポロポロポロポロン。

 やっぱりだ。
 海鳴りのラプソディー。
 敵からかけられたすべての弱体化、状態異常、ダメージを全回復し、敵の強化魔法やバリアをひっぱがす。

 たまりんたちは全回復した。
 そして、前衛の分身がさらに分裂した。前衛に四つ(四人?)の火の玉。
 火の玉だらけだ。
 いったい、たまりんは何がしたいんだ?
 次ターン、全体魔法で攻撃されたら、バリアの受けるダメージが増加するだけなのに。

 予想どおり、男はバリアを消しにきた。前衛の数が増えたから、みんな凍りつけ一回でバリア消滅。そして、むきだしになった、たまりんの分身たちに「みんな、凍りつけー!」と全体攻撃魔法を放つ。二連続。それぞれの分身に220のダメージ。でも、四体とも残ってる。一体も倒せてない。さっき全回復したから、HP40前後残ってる。

 スゴイな。たまりん。
 もしかして、これ全部、ハープの効果を考えて行動してるのか? きっと、そうなんだろうな。たまりんは賢い子だ。

「えーと、次のハープの魔法は……」

 火炎のルンバだ。味方全員の攻撃力がそのターンだけ二倍になる。

 次の瞬間、前衛のたまりん軍団が、いっせいにイケメン戦士に襲いかかった。
 怖い。僕なら絵面で失神するかも。

 地味に一撃30ずつだけど、イケメンのHPをけずったよ。それでも四回なら120ダメージだ。

 魔道系のHPはそれほど高くない。防御力も騎士ほど強くない。たぶん、あのイケメン戦士の残りHPは半分弱じゃないだろうか?

 あとひと押しだ。
 たまりん、ガンバレ!
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