第74話 モンスターって、すねるんだ?
文字数 1,541文字
う、動けない。身動きが……。
これって、待機行動じゃないか?
自分の行動が終わって、次のターンの自分の番まで待つ行動。この世界はなんでか、こういう仕組みになってるんだよね。現実なら行動順が終わっても、逃げるとか、なんとかできるもんだけど。
「なんで? 僕の行動、とばされた?」
そう言えば、前にヘドロたちと同じ地下水道に出てきた、すてられた死体っていうモンスターは、こっちの順番をとばしてしまう『のっとる』って技を使った。
でも、こっちのターンをのっとったなら、次はモンスターたちの行動だ。反撃してくるはずなのに、何もしてこない。なんか、壁ぎわのすみっこで小さくなってる。
「あれ? おかしいな。カーソルで見たら、僕の行動、選べる。てことは、まだ僕の順番、生きてるってことだよね? じゃあ、なんで動けないんだろ?」
モンスターたちは戦意を喪失している。
あっ、テロップだ。
戦意喪失とな?
「戦意喪失したらさ。ふつう逃げるよね?」
蘭さんが考えながらつぶやいた。
「……もしかして、モンスターたち、いじけてるんじゃないですか?」
「えっ?」
「かーくんがキモイなんて言うから」
「ええー?」
そ、そんなことってあるの?
つまり、すねて戦う気持ちじゃなくなったってこと?
「そんなの困るんだけど。こっちが逃げるしかないのかな?」
僕は試しに逃げようとした。
すると、サササッと、はいよるヘドロがさきまわりしてくる。うっ、これはもしや、特技の『はいよる』か?
「ああ……はいよるって、相手を絶対に逃がさない特技なんだ」
これまで戦闘から逃げだすことがほとんどなかったから、気づかなかったよ。
「えーと、モンスターたち、どうしたいの? 戦いたくないけど逃がしたくもないんだよね?」
「かーくんに謝ってほしいんじゃないですか?」
「ええッ? キモイって言っただけで?」
「あっ、ほら、またビクッてなった。いけません。よけいイジケますよ?」
「そんなぁ」
うーん。モンスターの心を傷つけてしまった。どうしよう。
「え、えっと……はいよるヘドロくん、ヘドロスライムくん」
ドロドロしたモンスターたちはチロッとふりかえる。全身ドロドロだけど、なんとなく首をまわして、こっちを見るそぶりをした。
「ごめんよ。あの……そういうのもモンスターらしくていいと思うよ? キモイはモンスターにとっては褒め言葉だよ」
「…………」
「…………」
あっ、ダメだ。ぷんとそっぽをむいた。
まいったなぁ。このままじゃ戦闘も進まないし、ムダに時間がすぎてくじゃないか。僕ら、一時間以内にここから脱出しないといけないのに。
「あのさ。ほんと、悪かったから、戦おうよ? ごめんね。ゆるして」
「…………」
「…………」
ふるふると首をふったっぽい。
ど、どうすれば?
すると、だ。
そのとき、蘭さんが馬車からとびだし——ては来なかった。でも、御者台のところまでは出てくる。
「はいよるヘドロさん、ヘドロスライムさん。君たちだって、もとはスライムだ。ヘドロから生まれてしまったかもしれないけど、きっと、善行をたくさんしてヘドロが浄化されたら、キレイなスライムになれると思うんです!」
うんうん。ヘドロくんたちが、真剣に耳を貸してる。
蘭さんは熱弁した。
「だから、僕といっしょに戦いましょう!」
ピカーッと蘭さんの全身が輝いたね。ヘドロたちをまぶしく照らす。
と、まるでその光に呼応するように、ヘドロくんたちの姿が輝きだした。
おおーっ、ピカピカすぎて目がチカチカするよ。何が起こったんだ?
テロップが流れる。
はいよるヘドロはヘドロスライムになった。ヘドロスライムは光スライムになった。
チャララッチャン。
ヘドロスライムが仲間になった。
光スライムが仲間になった。