第106話 白虎の竹林、一日め
文字数 1,583文字
白虎の竹林はわりと街の近くにあった。まっすぐ西に歩いていくと、竹同士が左右からよりそってゲートになっていた。
「ここだね。特訓が目的だから、ニートが終わるまで、奥まで行くのはよそうね。ニートって職業特性で、たまに行動しないでサボるんだよ」
「あはは。おもしろい職業だなぁ」
「笑いごとじゃないからね?」
さてと、竹林のなかはどんなモンスターが出るのかなぁ? ワールドマップと同じニンジャやサムライかな?
竹林のなかに入ると、僕はさっそくポチ袋を使ってみた。
「おっ、いいね。おれもやってみよう」
「これ、みんなが使うと効果が重ねがけになるかな?」
「さあな。試してみれば?」
「じゃあ、アジとたまりんにもあげる。ぽよちゃんは……お金いらないよね」
「キュイ」
いらないんだろうな。首をふった。ぽよちゃんは、ぽよぽよ草にしか興味ないもんなぁ。
僕らがポチ袋に封をすると、あたりにザワザワと風が通っていった。ちょっとイヤな感じ。魔物の気配が満ちたっぽい。
「さ、じゃ、行こうか」
ほんの一歩進んだだけで、
チャララララ……。
あ、もう出たんだ?
チャララララ。
野生のネコりん(白)が現れた!
野生のネコりん(黒)が現れた!
野生のネコりん(キジトラ)が現れた!
野生のネコりん(サバトラ)が現れた!
ああッ! か、可愛い!
全部、猫だ〜!
どこからどう見ても、ただの猫。可愛い。可愛すぎて、叩くのが申しわけない。
「どうしよう。猛。可愛いの出ちゃったね」
「可愛いなぁ。モフモフしたいなぁ」
「兄ちゃんがやると静電気が」
「あっ、静電気のせいかな。おれ、職業につかなくても雷属性の魔法おぼえたぞ」
「ええー! ズルイ! 兄ちゃんばっかりィー!」
「ははは」
じゃれてる場合じゃない。戦わないと。可愛いけど戦わないと、特訓にならないんだ。ごめん。ネコりん。
「じゃあ、ぽよちゃん、聞き耳お願い」
「キュイ」
ネコりんたちのレベルは1。HP30だ。どう見ても、スライムやぽよぽよと同レベルなんだけどな。あっ、でも器用さだけは高いんだな。回避率勝負のモンスターたち。
使えるマジックはなく、特技は、化ける。化けるのか。何に? モリーの変身とは違うのかな?
ほかは、猫パンチと気まぐれ。うん。猫っぽい技だ。
「かわいそうだけど、やらないとね。素手攻撃にしようかな」
「そうだなぁ。剣で切るのは残酷だろう」
「だよね」
僕ら兄弟は武器を外した。精霊王の剣(レプリカ)は、ミャーコにングング、ゴックンしてもらう。
まずは素早さ数値がもっとも高い猛。流星の腕輪をつけたから、ふつうに素早さ9000超え。僕のマックスまであげた数値より高い。いいなぁ。
猫たちはミーミー鳴いている。
「い、行くぞ……」
「兄ちゃん。あんまり痛くしないでね?」
「わかってるよ。そぅっとな」
猛は人さし指で、ちょんと黒猫のほっぺをついた。
「フミャッ!」
黒猫はぶったおれた。
「ああっ、かわいそう。だから、そっとしてって言ったのにィー!」
「そっとしただろ? 今の見てたか? チョンとしただけだぞ?」
「猛がバカ力だからぁー」
「そんなこと言ったって……じゃあ、かーくん、やってみろよ」
「いいよ。僕がやる。猫虐待撲滅」
ミーミー言ってる白猫に近づいていって、そっとほっぺをツンっとする。
白猫はぶったおれた。
「ギャー! 泡ふいて倒れたー!」
「ほら、みろ。かーくんだって」
「あっ、ミニコ。チョップはダメ! そっと、そっとやってあげて」
「ミー?」
ミニコがキジトラをなでる。
キジトラはぶったおれた。
残るサバトラは、ぽよちゃんが前足で、トンっとする。
サバトラもぶったおれた。
誰がやってもこうなるんだ!
弱い。何この弱っちい可愛い生き物。なんで、こんな物語も中盤になって、すっかりチート化してる僕らの前に、スライムと大差ないようなモンスターが出てくるんだ?