第66話 ワレスさんに貢ぐ僕
文字数 1,698文字
赤のファイターパーカーセットを買った。
ゴツゴツしたオリハルコンのよろいよ、さらば。
さっそくパーカーに着替えた。
うん。ゆるっとして、ぬくぬくで、ふわっとして、着心地いい。これで防御力500とか、どうなってるんだろ?
「やっぱり、シャケの手作りっていいなぁ」
「よかったですね。かーくん。似合いますよ」
まあ、これに旅人の帽子はかぶるんだけどね。アクセサリーは服の下に隠せるようになったし、前よりはチンドンパーセンテージが格段にさがった。よかった。
「ほかにはお勧め商品ないんですか? ジャンジャン持ってきてください」
「申しわけございませんが、ただいま、お売りできる装備品はこれだけです。ほかは予約ずみですとか、呪いが解けていないなど事情がございまして。また新しい商品が入荷しましたら、かーくんさまにもダイレクトメールでお知らせいたします」
「えっ? メール?」
「はい。伝書鳩を送りますので」
「……はい」
そうだよね。異世界でスマホ持ってるの、僕だけだよね。一瞬、期待しちゃった。
「わかりました。じゃあ、そろそろ帰りますので」
「お待ちください」
ズズイとお姉さんは両手をひろげて、僕たちの前に立ちふさがった。両手で指を鳴らしてダンスでも踊りだすかと思った。
「あの?」
「装飾品はありませんが、アイテムならございますよ」
「ああ。アイテムか。一点物のアイテムなんてあるんだ?」
「ございます」
一点物のアイテム。想像つかないなぁ。
「持ってきてください」
「はい。お待ちくださいませ」
新しいドリンクがさらにサービスされて、爆買い二回戦だ。
またもや、ゾロゾロと美男美女に商品が運ばれてくる。ツボや書物のオンパレード。みんな金や銀の盆に載せられて、王侯貴族になった気分。
「ツボ?」
「ツボは職業。書物は希少な生来呪文をおさめた魔法書でございます」
「ああ、なるほど。生まれつきに覚える職業や魔法書は、貴重なものだと一点ずつしかないんだ」
職業のツボは名人が死ぬときに遺す魂を封じてる。だから、一子相伝の職業のツボはこの世に一つしか存在しない。
魔法書だって、そうだ。個人が生まれつきに覚える魔法のなかには、その人限定のものがある。蘭さんの『みんな、行くよー!』とか『みんな、ありがとう〜』とかが、それだよね。
魔法は白紙の魔法書にコピーできる。だけど、とくに強力な魔法は、一生に一回しか写せないって話だ。
さっき白紙の魔法書五冊セットもらったから、蘭さんの特殊な魔法、複写しといてもらってもいいなぁ。
「ツボに魔法書かぁ。いっぱい覚えたら、戦闘が有利になるよね。とくにミニコは自分で魔法一個も覚えないのに、歯車のおかげでMPけっこう増えたからねぇ」
「魔法の使えるゴーレム。ますます便利になりますね」
まずは、いざってときの蘇生魔法や全体回復魔法がさきかな。
ワンレンのお姉さんが、すかさず口をはさむ。やり手だ。この人。
「魔法でしたら、ワレスさまが写された『雷神の怒り』はいかがですか? 敵全体に複数回の最強ダメージをあたえる攻撃魔法です。この魔法は光属性と風属性の両方の特性を有しておりますので、もしも両属性が弱点のモンスターでしたら、ダメージが2.25倍になります。それに敵が単体の場合は複数回の攻撃がすべて敵一体に集中しますので、単発の魔法攻撃より、はるかに強力になります」
ああ、この前、ギガゴーレム戦のとき、その魔法、ワレスさん使ってたかも。そう言えば、すっごい派手な雷がドドーン、ババーンってとびかってたよね。
「それもください」
「はい。十億円になります。こちらは割引対象外ですので、アレとソレともろもろで十五億円になります」
うん。もう、いくらでもいいよ。
「ほかはありますか?」
「こちらは『アクアリウム』です。敵一体を水球に閉じこめ攻撃をあたえたあと、マヒ状態にする魔法です」
「あっ、それ、海スライムがやってたやつだ。それもください」
「こちらは一億円ですね。アレやコレやもろもろで二億円でございます」
あきらかに計算がおかしくなってきてるんだけど!
魔法書はかなりの数、購入。これで僕ら、どんどん強くなるよ。