第138話 アジ特訓!
文字数 1,359文字
僕らは庭から転移魔法を使って、蘭さんの隠れ家を出ていった。
優勝賞品としてゴドバの腕を出したってことは、主催国のヒノクニの関係者も、この作戦を知ってるんだろうな。
「かーくん。こっちの蘭って、ちょっと幼くないか?」
「うん。十七歳だって」
「高二の蘭かぁ」
「僕らがこっちに来てるあいだ、おうちの蘭さんは一人で留守番してるのかな?」
「さあ。どうなんだろう」
街の入口から宿へ歩いていく。その途中で、とつぜん、アジが真剣な顔になった。
「ねえ、兄ちゃんたち。おれ、もっと強くなりたいよ。おれを鍛えて!」
なるほど。まあ、そうだな。明日からは、たまりんを次鋒にして、アジを副将にしとけば、三勝するのはラクだろうけど、アジはNPCだ。これからさきずっと僕らといっしょにいるわけじゃないかもしれない。今のうちに少しでも強くしておいてあげるほうがいい。ヒノクニ観光は次の機会だ。
「そうだね。僕も早く『小切手を切る』が使えるようになっておきたいしね。夕食まで特訓だ」
というわけで、まずはギルドだ。アジには職についてもらわないと。
ギルドはいつもどおり盛況だ。とくに変わったようすはない。マーダー神殿で、アジは魔法使いになった。
「ニートにはならないんだ?」
「それは今度でいい。そのほうが早くマスターできるんだろうけど、とにかく明日までに役立つ魔法や技をおぼえとかないとね」
やっぱり頭のいい子だな。計画性がある。
「今日、がんばって魔法使いと商人をマスターしたいんだ。そしたら、学者になれるだろ?」
「学者は前に、たまりんがなってたよね。たしかにアジには向いてるかも」
学者の特技は算術と速読。学者っぽいな。
「じゃあ、おれは賢者になっとこう」と、猛が言った。
「あれ? パリピじゃないんだ?」
猛は何やらニヤニヤ笑った。
「今のうちに魔法をたくさん覚えとくんだよ」
「ふうん」
すると、たまりんも進みでて、賢者になった。
猫たちはどうしようかなぁ。
弓使いになって後衛援護を会得してほしいんだけど、盗賊のツボがないんだよな。
「猛さ。モンスター職にはいろいろなったんだよね? どうやったの? モンスターの魂を手に入れたの?」
「それもあるけど、魔界にはモンスター神官っていうのがいるんだよ。人間の神官みたいに祈るとモンスター職につけてくれる」
「そうなんだ。猫たちもモンスター神官なら転職させてもらえるのかもねぇ」
とにかく今日はアジのための特訓だ。僕らは白虎の竹林へ出かけた。それから日が暮れるまで、みっちり鍛える。
おかげで、僕は大富豪をマスターした。小切手を切るを使えるようになった。
これでますます戦闘がやりやすくなったね。
アジも予定どおり、学者になれたし。
「じゃあ、今日はこれくらいにしとこうよ。猛とたまりんはギルドでもとの職に戻っとくでしょ?」
「ああ。竜王は数値あがるからなぁ」
猛たちが転職するのを待ってるあいだ、職業リストをながめてた。そのとき、僕は気づいてしまった。とんでもない職業があることに。
「な、何これ。この『持たざる者』って職業」
「えっ? なんだ?」
持たざる者。
特技は断捨離。
所持金をすてると、その金額ぶん素手攻撃力があがる。
お金をすてると素手攻撃力が……それって、一億すてたら、僕のパンチが一億攻撃力になるってこと?