ACT62

文字数 620文字

益々浅霧の好みの相手だな。と御幸から嫌味が聞こえてきた。

「こっちの思っていたよりも早いタイミングで動いてきた。予想よりもずっとね。」
「ああ、そうだな。」
ほんの少しの沈黙が深刻さを物語る。

ああいう奴らはいつだって、予想通りにはいかないのだ。

まだ手続きの関係で動けない。

包装紙には、指紋がついていたがそもそも江尻の指紋はまだ採取されていないから比べる対象に至っていない。

せっかくの接触のタイミングに、名刺を誰も受け取っていなかったからだ。

浅霧が江尻だと考えていても、証言や証拠が揃わないと動けない事は、もちろん浅霧も承知している。

受付と中西の妻の証言で「株式会社カブト」の「メガネを掛けた社員」がお見舞いに来たということで、少し前の時間から他の捜査員が事情を聞きに行っている。

森宮と名乗っているが、既存の通り既に森宮はあの雨の日に死亡している。

帰社時間に近い頃、捜査員が聴取に来ただけでなく面倒なことで箝口令も敷かれている状態だったので、その名前を出しただけで、かなり神経質な対応をされたらしい。

森宮の部署の部長が対応してくれたそうだが、メガネをかけている社員で、30代に見える中に『HIROBA』に通う本間が含まれていた。

念の為、その対象者に全員事情聴取をしたいと申し出たら、既に退社時間を迎えていて社内に残っている人は数人だった。

仕方がないので、会社側から一斉にメールを送ってもらっているらしい。連絡が取れた人から捜査員が出向く形を取った。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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