ACT93

文字数 695文字

何故か朝からバスを乗り継ぎ、江尻の家から遠い場所まで出掛けた。

いつもじゃ考えられない時間帯と行動だったので、バスに乗った時点で追えなかったらしいが、その報告を聞いて御幸は必ずその日のうちに病院に来るだろうと思っていた。

それがその時間だった。

部屋に素早く入り込むと、1分くらい身動きすらせずに部屋の中を探っていたようだ。

中西に成り代わっていた人は、治験という名目でバイトで雇った見ず知らずの人間だから、データを取るという理由で体中にセンサーを付けられ、点滴を入れられて眠っていた。

だから、その彼は殺されかけるという行動を知らずに仕事を全うしたのだ。

見えないところに小型のカメラを仕掛けて置いたので、江尻が入室したときから作動し始めたのだった。

ベッドから一定の距離を保ち、様子を見ている。
手には袋らしきものをぶら下げていた。

しゃがんでベットの下を覗き込んだり、機械類に興味を示しているようだった。

そうしているうちに、持参してきた袋の中から何かを取り出す。

手のひらに入るそれに、ペットボトルのような容器から何かが注がれた。

用が済んだ容器はまた袋へと戻され、別の箱のようなものからなにか取り出される。

最初に取り出したものを、そこへと入れると、ベッドで寝ているその人と繋がっている機材のコンセントのところへと置いた。

実は直接の被害が起きそうなら、隣で待機していた御幸の部下が巡回を装って入って来る手はずだったのだが、すぐに影響のでない方法を江尻は選んだ。

それは万が一、今すぐに見られても多少の時間稼ぎができる方法だった。

彼がその仕掛けをそこに置くまで1分もかからずに用意し、すぐその部屋を出ていった。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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