ACT49
文字数 871文字
つまり、江尻はまだ来ていない。
憔悴しきっている彼女にこれ以上の負担をさせまいと、
「では、これにて失礼します。何かありましたら、こちらまでご連絡ください。」
と、名刺を一枚渡して部屋をあとにした。
彼女はそれを受け取ると、なくさないようにとカバンへとしまい込むのを視線の端で見守った。
そして、さっき島田と別れた階段へと向かった。
上り階段をあがり踊り場の先を確認するととりあえず一旦島田が下りたと様に階段を下り始めた。
階段を下りながら、中西夫婦と御幸の事を考える。
江尻はニュースでは気にはしていただろうが、昨日初めてまだ生きているということを完全に把握したはず。
浅霧が自分で感じた江尻の本質と、御幸の見立てと三井をはじめ彼に質問への回答の内容を総合したときの浅霧なりの仮定で考えると、最悪のシナリオへと舵切りするだろう。
御幸の話で中西からなんらかの依頼があっただろうという事は分かっていたが、ただの依頼主じゃなく友人だったわけだ。
そう思って中西のことを思い返す。
断片でしかない彼の記憶の近くに、必ずと言っていいほど御幸がいる。
御幸は当時から結構変わっていた。
まあ、かくいう自分も自分の家の理由もあって、当初一番行きたかった大学から外れて入学していたので、何の面白みも感じないまま淡々とした大学生活を送っていたからか、たまたま一般入試で上がってきた同級生と話す程度で、それ以外の人からすると何の興味も持たない変人に見えていたかもしれない。
そんな中、その同級生に誘われ、渋々時間つぶしにいくつか掛け持ちで入っていたサークルのいくつかで御幸に出会った。
一見面倒な性格に見えるのに、なぜか多くの人と彼は接していた。
要領の良さと器用さで、大抵のことをそんなに努力せずに出来るようになるくせに、自慢することもなくしかも面倒見はその頃から良かったのでモテるのも当たり前だった。
しかも、相当の金持ちらしいのにそういうところもひけらかさないし、極力対等であった。
講義もいくつか同じだと知って、親近感が湧いていった。
そんな御幸シンパの中にたしか中西夫妻もいた。
遠い記憶。
憔悴しきっている彼女にこれ以上の負担をさせまいと、
「では、これにて失礼します。何かありましたら、こちらまでご連絡ください。」
と、名刺を一枚渡して部屋をあとにした。
彼女はそれを受け取ると、なくさないようにとカバンへとしまい込むのを視線の端で見守った。
そして、さっき島田と別れた階段へと向かった。
上り階段をあがり踊り場の先を確認するととりあえず一旦島田が下りたと様に階段を下り始めた。
階段を下りながら、中西夫婦と御幸の事を考える。
江尻はニュースでは気にはしていただろうが、昨日初めてまだ生きているということを完全に把握したはず。
浅霧が自分で感じた江尻の本質と、御幸の見立てと三井をはじめ彼に質問への回答の内容を総合したときの浅霧なりの仮定で考えると、最悪のシナリオへと舵切りするだろう。
御幸の話で中西からなんらかの依頼があっただろうという事は分かっていたが、ただの依頼主じゃなく友人だったわけだ。
そう思って中西のことを思い返す。
断片でしかない彼の記憶の近くに、必ずと言っていいほど御幸がいる。
御幸は当時から結構変わっていた。
まあ、かくいう自分も自分の家の理由もあって、当初一番行きたかった大学から外れて入学していたので、何の面白みも感じないまま淡々とした大学生活を送っていたからか、たまたま一般入試で上がってきた同級生と話す程度で、それ以外の人からすると何の興味も持たない変人に見えていたかもしれない。
そんな中、その同級生に誘われ、渋々時間つぶしにいくつか掛け持ちで入っていたサークルのいくつかで御幸に出会った。
一見面倒な性格に見えるのに、なぜか多くの人と彼は接していた。
要領の良さと器用さで、大抵のことをそんなに努力せずに出来るようになるくせに、自慢することもなくしかも面倒見はその頃から良かったのでモテるのも当たり前だった。
しかも、相当の金持ちらしいのにそういうところもひけらかさないし、極力対等であった。
講義もいくつか同じだと知って、親近感が湧いていった。
そんな御幸シンパの中にたしか中西夫妻もいた。
遠い記憶。