その9

文字数 784文字

中に 飲み物のしずくや残骸が入らないように気を付けながら開けると、パソコンは何とか濡れずに守られていた。

最近のはやりでエコバックをもちあるいていたので、その中にとりあえずクッション性の高い保護カバーごと避難させる。

何処かで貰った貰い物用で、可愛らしいピンクと黄色の色の組み合わせだが仕方がない。

移動させたことで、落ち着いて見たさっきまで通勤用として立派に仕事をしていた、その長く使ったカバンもこれを機会に買い換えようと心に誓っていた。

運が悪い出来事をまとったその物を使い続けるのは、好きじゃない。

心機一転も大切だ。

数分後、帰り着くまでに幾つかあるターミナル駅の一つ に着いた。

まだ、降りる駅では無かったが、この場にいるのが嫌になってしまったので、
「すみません。降ります。」
と、まだ片付けが続いているその場所から遠ざかりたくて急に思い立って降りた。

床が少しべとついていた気もするが、僕のせいじゃないし、無視した。

何の考えも無かったが、正直煩わしかったのがある。

あのまま、最寄り駅まで乗って行っても、本当は良かった。

零した本人だけ慌てて、掃除しているだけなら、大丈夫ですといいながらも、高みの見物していればよかったはずだった。

でも、なぜか僕以外の周りがあの人の味方みたいな構図になってしまったから、被害者の僕まで拭く作業をしなければならない流れが嫌だったのかもしれない。

どうせ、この匂いじゃバスにも乗れない。

頭の中はフルスロットルで考えが巡っていたんだ。
駅まで着いたら、コンビニか駅に隣接したスーパーでビニールを買おう、とか。

そして帰り道、まだ雨脚の強い中傘をなるべく電子機器のためだけに使って帰ろう、とか。

家に着くころには、飲み物のせいなのか雨のせいなのかなんて気にならない位ぬれてしまってもよかっただろう、とか。

でも、そうさせてもらえない空気に負けて、降りてしまった。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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