その66

文字数 695文字

タクシーに乗り込み、行き先を伝えた。

眼鏡のせいで距離感が慣れずに、乗り込むタイミングで少しあたまを ぶつけてしまった。
自分のアホさ加減にイライラする。

イライラが増幅している理由はまだある。
タクシーは独特の匂い、これだ。
僕は正直苦手だ、この匂い。

ただ、行きなれないところにいくには考えなくてもそこまで連れて行ってくれるのはありがたい。

病院の入口前は、ちょうど送迎が重なっていて混み合っていたので、少し手前の門の当たりで降りることになった。

小銭の持ち合わせが無かったので、2000円出した。

運転手がお釣りを用意している間、窓の外を見ると病院の入り口から、見たことのある男女が歩いているのが見えた。

僕はすぐに、あのときの刑事さんだとわかった。
少なくとも女性の方は。

忘れるわけがない。
嫌な思いをした相手だ。

まあ、僕は何かをしたわけじゃない、堂々としていればいいんだ。
関係ない。

お釣りを受け取って、スクッと車から降り立つ。

同じタイミングで、二人は近くに止めてあった車に乗り込んだ。

何もしてないけど、わざわざ近くを通って不快になりたくなかったので、丁寧に花が植えられ、きれいに手入れしている花壇の脇を通らず、駐車場を突っ切ることにした。

花壇のすぐ近くに彼らが乗った車があるからだ。

駐車場なので、歩道を使わず同じ様に合間を通る人も決して少なくない。

僕の降りたタクシーを、僕と同じように入り口から駐車場を突っ切って走ってきたオジサンが慌てて止めて、乗り込んだ。

僕はそのオジサンとすれ違ったから気にして目で追ったが、刑事さん達は気にもしなかったらしい。

僕が入り口に着いた頃には、門の方へと車が向かっていった。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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