その52

文字数 581文字

めんどくさい・・・。

しかしこんなところで、誰かの印象に残るようなやり取りをしたくないので、仕方がなく、
「そうですね。」
とだけ、答えた。

顔を見ちゃいけない気がした。

視界の端で捉えつつも、違う機種を見ているふりをしながら、少しずつ離れようとするのに、同じくらいの距離でついてくる。

業を煮やして、つい僕から声をかけてしまった。

「あ、あの、僕に何か御用ですか?」
らしくない。

この人のペースにちょっと負けてしまった。

「いえ、ちょうど同じ様な時間にコワーキングスペースに入られるのをお見かけし、私が出ようとしたら、ちょうどあなたも帰られるタイミングでして。
でも、もう少しだけ時間があると思って、立ち寄った次第です。
まさかここでもお見かけしましたので、こういうタイミングが合うときというのはと、何か縁を感じてたところだったんですよ。
そしたら、あなたは以前から私が気になっていた商品にばかり目を向けて行くので、参考までにお伺いしたくなった次第です。」

そう言われると、不自然なようでこの人なりの道理にもかなっているように思えてきた。

「はぁ、そうでしたか・・・。」
としか、答えようがなかった。

「あ、こんなに話しているのに名乗らないのは失礼ですね。
私、こういうものです。」
といって、名刺を出してきた。



あとは、住所と電話番号とアドレスが書いてあるだけの名刺だった。

「なんでも屋・・・。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み