その16

文字数 689文字

あれから どのくらい時間が経過したのだろうか・・・。
「お客さん着きましたよ。」
そんな機械的な声で起こされた。

気づいたら、なぜかタクシーに乗っていた。

うろ覚えだが、彼女に乗せられたらしい。
いつの間にか元のスーツに着替えていた。
だいぶまだ湿っている 。

見覚えのある風景、すぐ目の前にはアパートの住人が指定されたゴミ置き場が見える。
すぐ近くにあるのが僕の住んでいるアパートだ。

「4560円です。」
そういうと、僕の手から何かを奪った。

「領収書、要りますか?」
と言われたので、首をふると
「440円のお釣りです。」
と、手のひらに握らされた。

僕はドアが空いたので自動的に外に降り立った。

まだ、雨が降っているが、気にしていられるようなほど酔いは醒めていない。

「あ、お客さん荷物ちゃんと持ってくださいね。」
と呼び止められた。

振り返ると、シートに袋が2つ置いてあった。

言われたままにその両方を持ってタクシーから離れた。

ちょっと曲がったところに大通りとその少し先にコンビニがあるからか、いつもの帰る時間だったら割と人通りがあるあたりなのに、今の時間ほとんど誰も歩いていない。

なのに、アパートの2階へと登る階段の下で男の人とすれ違った 。

何となく睨まれた気がするのは、僕がふらついているから、ぶつかるなよという牽制の目らしい。

一応、すれ違いざまに頭だけはすみませんという意味でチョコンと下げた。

とりあえず、階段を上がり、部屋の前までたどり着いて持っている荷物を弄(まさぐ)り鍵を探しだした。

そして、いつもの自分の部屋に気持ちが落ち着いたのか、着ていたものをすべて脱ぎ去って、そのままベッドに潜り込んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み