ACT19

文字数 1,115文字

ここから 電車でも使えば最寄り駅まで10分もあれば着いてしまうので、一旦部屋に戻り着替えることにした。

今日の服装は、ちょっと今から行くところだと少し浮く。

落ち着いた色のパンツとジャケットを着て、カメラ付きのペンを胸ポケットに差し、記録が取れていることを確認する。

電車で数駅。
改札のを出たところで、男女二人組と待ち合わせる。

男性の方は、御幸に似通った体格で、顔も割と似ている。

御幸にカードを渡すと
「さっき、入りました。」
とだけ告げた。

近くで待機するようだ。
受け取ったカードには
『HIROBA 』
と書かれていた。

裏面は手書きで、『東丸内店』
とだけ記載されている。

それを胸ポケットに入れ地上へと向かう出口へと向かった。

目の前に、お目当ても店があった。

エントランスに一人だけいる受付に、カードを見せると、スキャンして戻してくれた。

お目当ての顔はすぐ見つけられた。
彼がいつも使う席に荷物を置いて、向かう先はわかっている。

いいタイミングだ。
島席のいいポジションが空いていたので、そこに唯一持っていた本を置き、彼と同じ方へ向かった。

何故か、彼の背中は揺れていた。笑いをこらえているのかもしれない。
(浅霧の好物だな、面白くなりそうだ。)


ちょっと驚かせたら面白いと思い、目の前にいる江尻甫に声を掛ける。

「何か楽しいことでも?」

江尻からは思った通りの反応を得られた。
ただ、それはほんの一瞬のことだった。

瞬時に彼の目の奥で警戒心を保ちながら表情が好青年の柔和な・・・そう、例えれば営業スマイル的な、何も邪魔をしない笑顔になっていたからだ。

「え、いえ。ちょっと思い出したことがあって・・・急に笑いだしたら、気持ち悪いですよね。失礼しました。」
と頭を下げた。

そういいながらも、江尻は御幸の値踏みをしているようだった。

「そうですか。楽しいことでもあるなら、羨ましいと思いましてね。こちらこそ、突然話しかけてすみません。」
一応、最低限の言葉を返しておく。

長い付き合いになりそうだからね。

彼は、適当に愛想笑いし、「お先に」と言ってその場を後にした。

飲み物を持って席に戻ってから、ただの事件じゃない かもということを感じ始めていた。

「中西は、随分と厄介なやつに嫌われたもんだ。」
この席からみえるセカイが、偶然じゃないのであればなかなか興味深い。

(浅霧は本当に引きがいいねぇ、しばらくは楽しそうだ)

とりあえず、色々と確認しなければならないことが出来た。

それに、彼が観察の視線に気づいたようなので、今日はこれ以上接触しても仕方がない。

観察と敬遠を兼ねてか、わざわざ近くを通って飲み物を取りにいったのでその隙に、今日は自分は撤退して、またバトンタッチして帰ることにした。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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