その40

文字数 555文字

通りすがり 、その席の様子を伺う。
気付かれないように。
荷物もないので帰ったのかもしれない。

ふぅ・・・。
と息をつく。

どうやら目があったのは、偶然だったようだ。
今日のことがあったから、ただでさえ人見知りなのに警戒心が強めに発動したようだ。

思い返しても、へんな言動はしなかったはずだ。

むしろ、変な詮索をした時間が馬鹿らしく思えてきた。

席に戻り、その人がいなくなって安堵したからなのか、急に5月31日についてのことがまた頭の中を占め始めた。

僕があの日座っていた席だったから、記憶のトリガーが惹かれたのかもしれない。

あの日、結局彼女のアパートまで行ってしかも二人きりだったというのに、彼女とは結局あの後何も無かった。

どういう流れでタクシーに乗り込んで、帰宅したなんて全く覚えていない。

まあ、それはどうでもいい。

そのもっと前、彼女がぶちまけたシーンを思い出した。

あの時のカバンと、そしてついてにスーツも捨てた。

クリーニングに出そうと思っていたけど、半乾きのまま袋に入れっぱなしにしていたからか、信じられない匂いを発していて、なんかもういいや・・・と思えてしまったのだ。

証拠品を出せ!
と言われても、ない・・・。

けれどあれだけ多くの人が見ていたし、タクシーも使ったから、次に警察が来たらその事を言えばもう来ることもないだろう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み