その107

文字数 507文字

あまりに驚いて。
「・・・。」
言葉に出せないが、ここは様子を見よう。

ははは、と我ながら乾いた笑いでごまかしながら、歩く。

しかし、何も言わずに笑顔なのか何なのかわからない、一見柔和に見える顔で、僕の顔を見つめている。

何も発せずに。
歩幅を合わせながら。

これ以上、ここで話したくない。

「まあ、よくわかりませんが、僕のような顔なんてどこにでもいますよ。」
そう少し語気を強めて言い放ち、僕はこの後何か言われても立ち止まらないと決め、その場から更に足早に立ち去ろうとしたその時。

「あの晩は、災難でしたね。」

「・・・。」

あの晩?
なんのことを言っているんだ?

さっきと同じくらいの真顔で僕は振り返る。
御幸はこっちをみてニヤついている。

なんだか段々この男の存在がムカついてきた。

「あの女性は、きちんと謝ってくれたんですか?」

「あの晩って、なんですか?あなたとはもう話したくない。僕に関わらないでください。」

その言葉に対してなにか言ってくると思ったが、予想に反して、彼は何も言わず、それ以上はついてくることなく、僕を見送った。

なんとなくまだ僕の背中を見ているのだけはわかった。

心をほんの少しでも、許そうとした僕は馬鹿だ。
あいつは、危険だ。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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