その106

文字数 556文字

不意を突かれた質問が飛んできた。

思わぬ質問で、きっと顔は固まっている。
せっかく外した視線を、思わずその顔のまま向けてしまった。

御幸は笑顔でこちらを見ている。

「・・・どういう意味です?」
うざったい・・・。
やっと出てきた言葉。

笑顔のままで言ってくる。
「いえ、先日街で見かけたような気がしたんですが、眼鏡をかけていたんで、江尻さんかどうかわからなくて、声を掛けなかったんですよ。」
先日?

ここ最近で眼鏡をかけたのは、あの病院へ行った時だ。

近くにこの人がいたのか・・・。

否定すべきか。
肯定すべきか。

見られ方がわからない以上、否定して会話が長引くのは避けたい。

「ええ、まあそうですね。」
より短い会話で済ませる。

余計な情報を与えたくない。
今すぐこの場から離れたい。

「ああ、やっぱりそうだったんですね。声を掛ければよかった。あの辺はお仕事で?」
帰りたがっているのを察するって知らないのだろうか・・。

「さあ、どうだったかな。眼鏡も時おり掛けるので・・・。」
早く離れたい。

「そうなんですね、3~4日前なんですけど。」
まさしくその日だ・・・。

「かけてたかも、しれませんね。」

じゃ。
そういって離れようとしたのに、まだ食い下がってくる。

「それが、そのあと別な場所でもお見かけしたようなんですけど
・・・。」
つい、また視線を合わせてしまった。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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