その73

文字数 589文字

結城は管理官に気付かれないように島田に目配せすると、三井を連れてあとから付いてきた。

見渡す範囲あちこちで捜査本部内は浅霧以上に苛立ちが目立つ。
上の苛立ちは伝播する。

本間や江尻に目をつけていたのは、始めから浅霧だった。

班長や三井を介してだったが、毛嫌いしている人物からの進言は受けたくないのを前提として、物証が無いことを理由に広範囲に参考人を広げていた。

結局昨日まで、容疑者らしい人物が特定されず、その結果のこの後手は、苦々しいに違いない。

浅霧は、独り占めしようということは思っていない。

少なくても、結城がついて回ってからはそういう素振りは一度もない。

ただ思うがまま、仮定を辿るだけなのだ。

その仮定に、よくテレビなどで誇張される刑事の勘というものを少しだけ超越した嗅覚を持っているのだ。

たしかに、警察は公僕だからこそ地固めしてからじゃないと進めないというのも有るのだがそういう部分で自由にしている浅霧と、相性が悪いのは仕方がないのかもしれない。

忙しそうな捜査本部を抜け出てきたので
「どこに行くんですか?」
という少し不安そうな三井。

それに引き換え、
「もしかして、あそこに行くんですか?」
と、以前に行ったときにコーヒーが美味しかったらしく、また行きたいと思っていた島田。

色んな感情がうごめいていたが、浅霧が考えごとをしながらスマホを見て何やらしていたようで、邪魔しないようにしている。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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