その75

文字数 700文字

まさしく、さっき差し出したものだった。

「ありがとうございます。すぐ戻します。」
そう言って受け取り、近くにあった椅子のところまで行って写真を取ろうとしたら、スマホが見当たらなかった。

頭の中が真っ白になった。
慌てて受付へと戻る。

「ちょっと、スマホをなくしてしまって・・。」
と、その慌てた感じが伝わったのか、その女性が一計を案じて名刺を見て会社名と名前を手元の付箋にメモして名刺をまた僕に戻してくれた。

「え?いいんですか?」
「ええ、控えましたから。」

なんて女神なんだろう。
機転の利く女性は素晴らしい。

なんとなく、最初に嘘を付いてしまったことが申し訳なく思ってしまった。

しかも最後に、スマホ見つかるといいですねとまで言ってくれた。

ウチの会社にもああいう気の利く人が多く居たらいいのに・・・と思いながら、病院の外へと出た。

タクシー乗り場には数人待っているようだが、なかなか来ないのかちょっと退屈そうにしている人もいる。

見れば、タクシー専用の電話が設置されていて、連絡すると来てくれる仕組みらしい。

さっき僕が乗ってきたタクシーを我先にとおじさんがかっさらっていったのは、順番を待つのも煩わしい人だったのだろう。
正しいルールのもとに生きている人ばかりじゃないのだ。

その時ちょうどバスの時刻表が目に止まった。

時計をみると、後数分でバスが来る。

確かさっきタクシーを降りた際に、近くにバス停があってそこで数人待っているのを見た気がする。

ここには自分の用事で来たので、経費で落ちない。

とりあえず、スマホの件で駅に急いで行かなければならないとは思いつつもバスならさっきのタクシー代ほどはかからないだろうと思い、バスを選んだ。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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