その20

文字数 828文字

なるべく 顔に出さないように。
悟られたら課長が何を言ってくるか分からない。

1時間あるから、階段を使って屋上へと向かう。
3フロア分だが、普段運動してないから、このくらいしないと罪悪感がある。

屋上は、少し時間がズレたからか、久しぶりに割と空いていた。

少し雲が多いけれど、その隙間の空の青さが心地よく感じた。
多分、この会社に入社以来、初めてそんな気分になれた気がする。

いや、もしかすると、ずっともっと前から空の青さになんか、気にもせずに過ごしてきたのかもしれない。

いつからだろう。
空を見ても晴れやかな気分になれなくなってきていたのは。

とりあえず、お茶を一口飲んだ。

その緑茶の爽やかさが、また心地よさを倍増させてくれる。

都会のまずい空気すら美味しく感じる。
気分って大切なんだとつくづく身にしみる。

またビニール袋の中に手を入れる。

最初に取ったのは明太子のおにぎりだ。
これも、久しぶりに買えて今日は嬉しかった。

あれ、もしかすると今日そう言えばラッキーデーなのかも。
すかさずスマホを見る。

設定してあるサイトの片隅にある自分の星座の順位が2位になっていた。

(あ、やっぱりラッキーデーじゃん。・・・ん?でも、そういえば、なんで警察?)

午後の会議に出なくてもいいかもという嬉しさに忘れていたけれど、そもそも何で警察がきたのか思い当たらなかった。

酔って帰った時、タクシーに忘れ物でもしたかな・・・。

電車の中、汚したまま降りたから?
いや、でも、アレはぶちまかしたのは僕じゃないし。

と、考えながらたった3口で久しぶりに手に入った明太子おにぎりを食べ終えてしまったので、次のを取り出す。

次のは五目ご飯だった。

じゃ、最後に梅干しか・・・とか考えながら、次のを開けて食べだす。

しかし、2個目のおにぎりを食べ終わっても尚、警察が僕のところに来た理由がわからない。

仕方がないので、梅干しのおにぎりはゆっくり味わって食べることにした。

それでも5分後にはおにぎりは全部なくなり、お茶だけが残った。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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