その98

文字数 442文字

落とし物を探してもう一度立ち上がっても中西には何の変化もなかった。

まあ、この程度で変化があったら、こんなに長く入院してないだろうが。

つまらなくなって最後にこんな機会じゃないとじっくりと見ることも出来ない見慣れない病室を少し観察して部屋を後にすることにした。

病室から通路に出るときだけ、ちょっと緊張した。

せっかく電気もつけずに探しものをしたのに、ここで誰かに出会ってしまったら意味がない。

音が全く聞こえ無いことを確認してから、そっとドアをあけた。

帰るときも同じルートを通ったが誰にも見られることがなかった。

夜間診療の方では、来るときよりもにぎやかだ。
子供の泣き声が聞こえるのは、昔のことを思い出して少しイライラした。

入ってきた通路から外へ向かう。

また一組の親子と思われる人が入ってくるところだったのですれ違いざまに外へと出た。

もう少し速歩きして僕がドアを開けてあげるほうが親切だったろうが、出てから気がついた。

まあ、過ぎたことは仕方がない。
そういう親切心は、時々空回りしてしまうものだ。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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