その39

文字数 841文字

そそくさと パソコンを置いた場所へと戻り、2~3回、ゆっくりと呼吸をする。

落ち着こう。

PWを打ち込み、仕事の画面を立ち上げた。
集中しよう。
余計なものを視界にいれないように。

今日は、実りのない会議はともかくとして、仕上げてはおきたかった事が気分の高ぶりも邪魔をしてあまり進まなかったので、もう少し形にしたい。

警察なんかが来ていなければ、その会議の最中にどうせ席にまでPCを持って行かなければならなかったので、こっそりと内職しながら進めようと目論んでいたから、そういうのも含めて計画通りじゃない。

仮納期も近いので、ある程度作っておかないと、来週の打ち合わせに間に合わなくなる。

とにかく、集中だ。

職場と違い、同じくらい視界の中に人が見えるけど、みんな会社外のアカの他人だから、全く気兼ねをしなくていい。

気づいたら、1杯目も飲み物がいつの間にか終わってしまっていた。

跡少し出目度が立つ。
もう一杯だけ持ってきて、飲み終わった頃に今日は帰ろう。

そう思って飲み物を取りに行こうと顔をあげると、あの雨の日に僕が座っていた席に、先程、僕の後ろにいた男性が座っていた。

その席は島席なので、選ぶ椅子によっては色んな人と距離はあるものの対面になる。

そして何故かその人は、僕と対面になるように座っていた。

たいてい、 このスペースでは仕事をしている人がほとんどだ。

話したことはないけれど、右側の方 に座っている人も、窓の方に座っているあの人 もよく見かけるが、どちらも何かしら仕事をしている。

でも、今対面に座っている人は見る限り、本とさっきの飲み物だけ。

そんな風につい観察していたら、あっちも気がついたのか僕に笑顔を投げてきた。

僕はつい、ちょこんと頭を下げて挨拶仕返してしまった。
他人にスルッと入り込まれる事がないので、落ち着かない気分になってしまう。

その勢いで話しかけられるのを避けるために、飲み物を取りに行き目線を合わせないように戻ろうとしたら・・・
もう、その席に目をやると、そこにはその人の姿はなかった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み