その53

文字数 560文字

にこやかに笑って
「ええ。まあ、色んな事をしている仕事ですね。」

色んな事。
僕は真っ先にネットの動画で見た、蜂の巣を撤去するのを思い出した。

「えっと、蜂の巣とか取るようなやつですか?」
と聞くと、
「まあ、必要であれば。」
と少し含みのある言い方をした。

名乗られてしまったので、渋々自分も自己紹介した。

つい、名刺を貰ったので自分も名刺をうっかり出してしまったが、出してからそこまでしなくても良かったのではと思いがよぎった。

しかし、今から引っ込めるのも変なので、そのまま渡すことにした。

習慣というのは、こういうとき恐ろしいものである。

「この字で、はじめっていうんですね。へぇー。」
と、関心している。

ちょうど僕も御幸という字の読み方を初めて知ったので、
「僕も、この漢字2つでみゆきっていうのを始めてみました。」
と、似たようなことを言った。

こういうところを感心しあうと、なんだかさっきまでの胡散臭さが少しずつ何処かにいってしまうのは不思議だ。

何となく、心を開いてしまった気もする。

もし、それが彼のコミュニケーションの方法なのだとしたら・・・と思うと、まだ若干の警戒心は、心の奥に残っていたりもする。

ただ、それでも好奇心のほうが勝ってしまい、
「ライムさんというのも、なんか、覚えやすい名前ですね。」
と、つい感心したことを更に僕から話した。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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