Discloseー25

文字数 900文字

「彼は、あの会社の中でIT部門の指折りの戦力でした。ただ、運が悪いことに、あの会社の経営陣の中で一番その分野に長けていたのが森宮氏だったから、その課の課長をしていたんです。
だから江尻くんの業績も全て森宮氏率いるチームとしての業績にされてきたんです。
しかも、森宮氏は、性癖というか・・・
男女問わずいける口で、基本女性とくっついている方が多いんですが、気にいると所構わず・・・その・・・。」
と、証言者が言葉にするのをためらうような話。

その証言者も、飲み会の席で皆の前でキスをされたらしい。

「みんなね、自分が干されたくないから見て見ぬフリをするんですよ。まあ、キスくらいで済めばいいほうですがね。」

そして酔った席で覚えていないと言い放ち、ポケットにいくらかお金をねじ込む。

安月給だったから、みんな渋々気持ちの悪い行為であっても受け入れていた人も多かったようだとうつむきながら言っていた。

「なんせ、こじれたら弁護士がすぐに来て収めるんですよ。僕の時も、仕事をやめるときに規定の期間の退職金にいくらかほど上乗せしてやるからと口止めされましたよ、人気のないところに呼び出されてね。」

でも、それでも江尻はなかなか辞められなかった。

「その後何年か後にばったり街で江尻くんに会った時、最近やっと仕事を変えたんですよ。と、嬉しそうに言っていたのを覚えています。でも、江尻くんとはそれっきりで・・・。」

とカブト時代のことを少し聞き出す事ができたのだ。

他の人の証言を断片的に聞いても、やはり江尻は森宮からセクハラを受けていたことが証言に上がっている。

カブトを辞めてようやくまともに正当な給料下で働けるようになったのはサトウ商事に勤め始めてからだったらしい。

そして先述したようなポジションへと出世していく。
しかし、なぜかそこも辞めているのだ。

昔話を聞き続けている江尻は、ずっと睨んだままだった。
肯定も否定もせずに。

ただ、結城にはなんとなくこみ上げてくるものがあるように見えた。
そこへ浅霧は畳み掛けるようにその先を話し出す。

「サトウ商事に入ったきっかけも、そして辞めるきっかけもあなたの妹、結果さんが理由なんでしょ、江尻さん。」
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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