その116

文字数 559文字

僕は、もうすぐテストだったから少しでも早く家につけるなら幸いと乗り込んだ。

その時初めて気がついた。
親父がいつも運転している車の匂いがそこにあった。
タクシー独特の匂い。

親父のせいで、家の車にはしっかりその匂いが染み付いていて、その匂いのせいで僕は気分が悪かったのだ。

暑いと言って、理由も言わず窓を全開にして乗った。
そういうのもあって、タクシーの匂いのしない母親の車にばっかり乗るようになった。

免許をとってすぐに練習用に借りたのも、母親の車だった。

タクシーの匂いはなかなか慣れなかった。

ただ、大人になって乗らないというわけにもいかないのでどうしてもという時以外は、都内でタクシーの運転手をしている親父が空いていれば送迎を頼む。

窓を開けたいとワガママを言えるから。

まあ、もちろんメーターをつけてもらう。
あの人も商売だから、今はGPS昔ながらのタコメーターなんかで監理されている以上、昔のように無料で乗せるとかはすぐにバレてしまう。

それに、不景気のアオリもあって僕のほうが多く給料をもらっているのもあるので、縄張りのある世界の中で呼び出す手間賃も含めきちんと支払っている。

大学を出て、都内でひとり暮らしをしてからというもの、公共交通機関で大概のところには行けてしまうので、車の良さを忘れていた。

これを期に車の楽しみを増やそう。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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