Disclose24

文字数 608文字

「・・・恐れている?」
ゆっくりと視線を浅霧に戻す。

「あなたがカブトで働いている時期に、あなたと同じように森宮氏のせいで精神的に参ってしまい、あなたよりも少し早い時期に辞めた人から話を聞きました。」

その話は、先日島田と三井が足を運んで聞き出してきた情報だった。

その頃、アメリカを発端とした経済悪化の波が日本でも押し寄せてきた後で、新卒でも就職がままならなかった。

それでもなんとかカブトで働けることができたその証言者が森宮の部下になってから、精神的な苦痛を虐げられてきたそうだ。

当時、ようやくハラスメントについて企業の中でも色々と問題視され始めていたのだが、少し小さなファミリー企業のカブトで取り組みだすのは、匿名で労基に何回も働きかけてくれた誰かのおかげの数年後で、是正勧告を受けてからだった。

それまでは、高い技術のある人も転職もままならない社会風潮のなかであり、心身にも影響が出るくらいのモラハラ・パワハラに耐え抜くような環境下にいたと証言してくれた。

それでもその証言者が退職をできたのは、実家通いで家賃の最低限の生活が保証されていたからであって、多くの人が森宮氏の所業を甘んじて受け入れていた。

江尻もそんな一人だったと言っていたという。

「特に江尻くんは、簡単に辞められなかったと思います。確か、自分の奨学金と妹さんの学費があるからって、よく言ってましたから。」

森宮氏はそれでも江尻のことを特に気に入っていたそうだ。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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