その38

文字数 511文字

あの、 雨の日。

電車で飲み物を掛けられた日。

僕は、絶対的なアリバイがあるじゃないか。

最悪な1日だと思っていたけど、最高な1日だったということに気がつくと、やっと抑えて落ち着いた笑いだけがまたこみ上げてきた。

ははっ、はははっ。
そこで、ツイ笑い声を漏らしてしまった。

「何か、楽しいことでも?」
突然後ろから声を掛けられた。

驚いて、今淹れたコーヒーを零しそうになった。

そこに、一人男性 が立っていた。
どこか飄々とした感じで、少し年上のように思う。

驚いたからの、鼓動の速さからのドキドキなのか。
何か良からぬことが起き始める警鐘からのドキドキなのか。

胸の奥で鼓動が早まるのを感じている。

だから僕は、その人の頭の先から足の先まで、つい、目でなぞるように見ながら、

「え、いえ。ちょっと思い出したことがあって・・・急に笑いだしたら、気持ち悪いですよね。失礼しました。」
と頭を下げた。

はやく、ここから逃げ出したい・・・

男性は、口元だけ笑顔を作りながら
「そうですか。楽しいことでもあるなら、羨ましいと思いましてね。こちらこそ、突然話しかけてすみません。」
と、その人も頭を下げてくれた。

僕は、適当に愛想笑いし、「お先に」と言ってその場を後にした。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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