ACT48

文字数 797文字

そうやって見ていると、
「どちら様ですか?」
と、女性の声がしたので振り向いた。

「あ、すみません。警察のものです。近くまで来たので、立ち寄りました。警視庁の浅霧と申します。」
と、警察手帳を出しながら挨拶すると、
「まあ、浅霧さん?お久しぶりです。」
と言われて驚いた。

彼女の顔もどこかで見たことがある。

記憶を探ると御幸が思い浮かぶので、学生時代のときの知り合いかもしれない。

そうだ、一緒にいた時に何度かあったことのある女性だとおもった。
でも、残念ながら名前まで覚えていない。

その程度の関係性。

そこで合点がいった。
そうか、彼は大学が一緒だった。

「申し訳ない、毎日名前を見てはいたのですが、名前だけじゃ思い出しませんでした。
今ここに来て、どこかで見たことがあると思っていたところでした。もしかして、ご結婚を?」
と、どうとってもいいように繕って話す。

失念に関して最低限、失礼の無いように振る舞うのは得意なほうだ。

「ええ、もう13年になります。」
名前に触れなかったことには気づいてないようだ。

「あの、警察の方がまた何か御用ですか?」
彼女には、事件面での話はまだ伝わっていないようだ。

「ええ、まだ事件と事故の両面で捜査中でして。ただ、事件性も捨てきれないので、私のところにも話があがってきたもので、一度確認も兼ねてお見舞いをしようと。」
まだ、動きのない状態で余分な情報を与えたくない。

「そうでしたか。お心遣いありがとうございます。」
部屋を見回す。

普通、こういう場合会社の関係者が来てはお見舞いと称して、花など持ってくるものだ。

聞けば、入院直後には会社の人が来たが、最近はめっきり減ったのだそうだ。

「じゃ、ここ数日ではわたしが久しぶりの見舞いですか?」
「ええ。
あ、いえそういえば、数日前に御幸さんはいらしてくれました。」

御幸が来た、という事はやっぱりさっきの視線の感じは御幸の仲間で、どこかで見ているということだ。
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登場人物紹介

江尻甫(えじりはじめ)・・・このストーリーの主人公。都内の会社でSEとして働いている。ある日、警察から事情聴取を受ける。

浅霧・・・警視庁の刑事。少し風変わりだが優秀。自分の気に入った事件にはものすごく集中して動く。

結城・・・警視庁の刑事。浅霧の同僚。

御幸・・・なんでも屋。浅霧の大学の同級生。違法行為も行う。

三井・・・所轄の新人刑事

高橋・・・浅霧行きつけの喫茶店のマスター

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