第379話

文字数 576文字

 昨日、呼吸をみつめる瞑想をしていると、あることに気づいた。
 呼吸をしている時── 鼻から息が入り、鼻から出て行く時── この繰り返しを自動的にしている身体を意識している時。
 息が出て行く時のほうが、記憶に残る。
 息を吸った時は、覚えていない時がある。

 あれ、今吸ったんだっけ、吐いたんだっけ、と、どっちがどっちだか分からなくなる時がよくあった。
 その時のたいていは、「吸った時」だった。
 で、これから吐く時、あれっ、これからどっちだったっけ、となるのだった。

 そして、あ、今吸ってたんだ、と、その時はじめて気づく。

 吸うよりも、吐くほうが楽なのだ。
 口は常に閉じているから、吐くという表現はふさわしくない。
「鼻から息が出て行く時」だ。
 その「出て行く時」のほうが楽なのだ。
 深呼吸する時、吸うより吐くほうが気持ちいいのと同じだろう。

 あ、オレ生まれたこと、忘れちまったな… そう思った。
 息を吸う時、いのちが入ってくる、と思う。
 息が出て行く時は、その逆だ。

 そしてまた息を吸う、身体は、自動的に。

 息を吸う時は短く、出て行く時は長く感じられる。

 あ、と思った。
 楽なほうばかりを求めて、それを記憶しようとしているんだ、と。

 いけない、いけない。吸う時も、ちゃんとみつめよう。
 そこから、いのち、始まっているのだから。
 忘れないようにしなくちゃ、と。
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