第96話 ふるさと

文字数 711文字

 僕は東京の板橋に生まれ、育った。ビルや高速道路に覆われ、「空がない」とげんなりしていたのが二十歳か三十の頃だったが、今回実家に行って、近所の商店街を歩いてみた。こどもの頃、ここには八百屋さんがあって、ここには豆腐屋があって、本屋があって、と想起しながら。
 それらはぜんぶなくなって、おシャレなパン屋とか、コンビニとかに変わっていた。
 でも、こどもの頃に食べて、とても美味しかった焼き鳥屋は健在だった。あのレバーを何十年ぶりかで食べてみた。美味しかった、ほんとに美味しかった。ツレアイも、美味しいといって食べていた。
 板橋。JRの方には、近藤勇、新選組?の慰霊碑みたいなのがあって、実家の近所にも、むかし近藤勇が泊まった?家、以前は一軒家だったが今はマンションになり、その土地内に記念碑みたいなのがひっそり建っていた。
 板橋… 20年も住んでいたのに、町についての知識はほとんど無い。記憶にあるのは、本屋や八百屋、文房具屋で店番をしていたおばさんやおじさんで、とにかく懐かしい。よく可愛がってもらったと思う。
 今はもちろん、町行く人も変わり、自転車も多くなって、昔の面影はない。
 でも、土地柄、そこに住む人に共通する何か、思い過ごしだとしても、「親しみ易さ」を感じる。
 焼き鳥を買う時も、「はい、どうもー」と、気軽に、安心して、おばちゃんのお釣りを受け取ったりして、町を歩いていても何だか安心する。
 板橋区といっても広いけれど、ぼくの住んでいた板橋は下町だろう。人情味みたいなのがまだ残っている気がするし、人の多さもほどほどで、多すぎず、少なすぎず、生活感もあって、面白い町だと思う。それが、郷愁のようなものだとしても…。
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