第229話 散らかった部屋の中で

文字数 690文字

 ここ数ヵ月、部屋が散らかったままだ。

 あまり、嬉しくない。

 そしてこの散らかっている原因は── 家の造り、押し入れが少ないということも言えるが── この「物」として多いのが、本なのだ。

 もう読むか読まないか分からないし、あってもしょうがないように思える。

 だが、これを捨てる(もしくは売る)のは、勇気が要る。

 どんなに、もう読まないだろうと思える本でも、この本を失くすことは、自分をつくってきた一部を失うように思えてならない。

 今まで、もらってきた手紙もそうだ。そこには、その人との関係が、関係をもった時間がある。

 旅立った父の手帳にしても、捨てることができない。

「なくてもいい」はずのものだ。でも、捨てることはできない。

 自分をつくってきたもの── それを捨てることは、「あってもしょうがないもの」なのに、手放したくない思いに駆られる。

「断捨離」の名の下に、ぽんぽん捨てられない。

 本棚、整理棚を買えば、この部屋が片付く。片付けば、すっきりする。快適になるだろう、今よりは。

 だが、その棚などを買えば、その棚がまた物となって増えてしまう。

 読むか読まぬか分からぬ本のために、また物を増やすことに躊躇う。

 もう、そんな先も長くないと思いたいので、物をこれ以上増やしたくない。

 しかしこのままでは、部屋は一向に片付かない。雑然としたままである。

 こうして、あまり快適といえない部屋の中で、何やらパソコンに向かう仕儀となる。

 これが今の心の現状、心の中がそのまま形にあらわれた、一つの風景なのだろう。

 片づけたい。でも片づけられない。ゴミではない。でも、大切な物だ。

 困ったものだ。
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