第87話 鈴虫

文字数 658文字

 夜になると、鈴虫の声がよく聞こえる。一生懸命、鳴いている。
 恋人を求めて、鳴いている。いっしょうけんめい、いっしょうけんめい。
 いい伴侶とめぐり会えたらいいネ、と寝床の中で願わずにはいられない。

 ツクツクホウシの声も聞こえなくなった。
 セミの鳴き声で夏はじまり、鈴虫の声で秋をおもう。
 最初のひとと、最後のひとはたいへんだ。
 まわりに、だれもいないのだ。
 いくら鳴いても、だれもいない。

 きのう、部屋でパソコンしてたら、家人がおやすみを言いに来た。
 ムズカシイ顔をしていたんだと思う。
「あなたは学校教育を受けていないから、生きてくのがほんとに大変だと思う」
 みたいなことを突然言われた。
 それから少し、イイこと(?)を言われた気がするが、忘れた。
 あまりそういうことを言われたことがなかったので、恥ずかしくなって、
「みんな、こっちばっか見てさ」横に何か置くように手を広げて、
「ここを見ようとしないんだよね」と自分の腹辺りに手を置いて、
 何か言ったような気になった。

 それからまたしばらくPCに向かい、寝床へ行った。
 で、鈴虫の声である。
 たぶんぼくはいい伴侶とめぐり会えたのだと思う。
 でもその時その時のタイミングで。
 今までだって、素晴らしいひとや素敵な友達はいた。
 こっちの流れとあっちの流れ。
 何かがハズんで、その時、一緒になって。

 ただの、流れだとはおもう。
 仕方なく、流れていて。
 ただその仕方が。流れる場所が。その土台が。

 いのちには、かぎりがあること、
 そのせつなさをおもいます。唐突に、でも自然に。
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