第305話 岡田監督のインタビュー

文字数 1,240文字

 去年、ラジオのプロ野球実況中継で、現阪神タイガース監督の岡田さんが解説者として招かれていた。
 実況するアナウンサーが岡田さんに話を振る。「このプレイはいかがだったでしょう?」みたいに。

 すると岡田さんは、「うん?」とか言って、ココロここにあらず、という感じで受け、「いや、まあ、ね」と何か話し出す。
 長々と喋らず、端的に、というかその「端」にも引っ掛からないほどに、短く、何か言うのだった。

 いや、すごい解説だなと思った。たいてい解説者というのは必要以上に何か話す。時に「うるさいなぁ」と耳障りに聞こえることもある。
 だが岡田さんの解説は、ほとんど解説というより「独り言」のような感じだった。

 聞いていて、しかし、面白かった。アナウンサーの問いに対し、何か答えていることは答えている。
 だがその言葉は、「単なる言葉でしかないやろ」とでも言いたげで、言葉以上のものをこちらに想像させる。そして、「何だかよく分からないけど、すごいなこの人」という印象をぼくに残したのだった。

 ぼくはどこのファンというわけでもないが(開幕当初は日本ハムが気になった)、この岡田監督にはとても興味をもっている。監督になってからも、ラジオで「勝利監督インタビュー」を聞けば、まず「いやいや、まぁ、」から始まることが多い。

「あの場面はいかがでしたか」といった質問に「いやいや」。「これから、ノッていけそうですね」みたいな質問にも、「いやいや」。

 この「いやいや」が、ぼくは好きなのだ。まず「いやいや」と言うことで、「軽薄なインタビュアーの手には乗らんよ」とやんわり拒否しているようにも聞こえるし、質問に答える前のウォーミングアップ、軽い準備運動のように「いやいや」と言っている気もする。毎日、勝つたびに聞かれるのも大変だろう。

 そして、「いやいや、まあ、そうですね、~じゃないかなと思います」みたいに答えた後、「うーん」とか言って何か考えている。(ように聞こえる)

 いやいや、ほんとに面白い監督さんだと思う。チームの状態も良いらしい。采配を見ると、シロウト目にも納得させられる。スターティングメンバーを見て納得、ピッチャーの代え時にも、大体納得してしまう。

 滑舌が良いとはいえないと思う。何を言っているのか、よく分からない時もある。でも、ああ岡田監督だなぁと、ここでも納得してしまう。

 とてもマイペースな方なのかもしれない。でもチームがどうしたら勝つか、全体を見て、また個々を見て、そのマイペースはひどく大きく、そして細やかそうだ。実際、これだけ勝っているのだから、確実な采配をしているんだろうと思う。

 マイペースでありながら自分勝手さに走らず、「いやいや」といつもクラウチングスタートから始める監督。こういう、どこか捉えどころのない、でも勝つための戦術を確かに持っている監督── その確固たる「マイペース」という大きな波の上に、選手たちもきっと納得して乗っているに違いない。とにかく、面白い監督だと思う。
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