第72話 整体院に行って

文字数 1,502文字

 どうにも身体がナナメになってしまう。(偏った考え方が身体に現われてますね)
 椅子から立ち上がると、それは顕著に。
 同じ態勢でいることに問題があることは分かるけれど、いつもいつも動いているわけにもいかない。
 何年前か、やはりナナメになって、左のふくらはぎが突っ張り始め、起き上がることができなくなった。あれはあの時だけで、その後何事もなかったが、家人が大変だった。
 救急か何かの相談センター? こっちは頭痛やら吐き気やらで、どこに彼女が電話しているのか分からなかったが、電話であれこれ説明を受けている声は聞こえた。
「脳」が原因でなければいいのですが、ということだったらしい。脳溢血とかで死んでしまうことを、相談先の電話主は一番おそれていたようだった。

 どうして回復したのか知らないが、けろりと治った。いつ、治ったのか、全く記憶にない。
 あのとき、腰痛で世話になっていた整体師に往診に来てもらったことは憶えている。こう書いていて思い出した、そうだ、何かしてもらって、あれで回復したんだった、足を、とにかくさすったり、じっと押したりしてくれたような…。

 その人はもう引っ越してしまったので、今は片道40分くらい歩いて、オステオパシーとかいう技術をもった整体院に、具合が悪くなったら行く。
 この整体師とはウマが合うらしく、先方も本気で笑って、こっちも本気で笑い、良好な関係が続いていると思う。
 先日行った時は、「松の葉タバコ」をいただいた。ニコチンが入っていないそうである。小さな鉛筆削り器みたいな「紙巻き器」に松の葉(あの細長い葉っぱですね)を入れ、巻くらしい。
「あ、これは面白いですね」と言うと、「面白いんですよ」。
 何よりこの人は、人生を楽しんでいる。
 一時期、会社員をやって、ぼろぼろになるまで働いていたらしい。そして何をしても、「自分の居場所はここではない」と感じていたらしい。

 整体医になろうと決意し、アメリカ発祥のその技術を学ぶ研修で、ほとんど全財産を使い果たしたとか。
 奥さんもいらっしゃって、二羽の文鳥さんと四人で、たぶんマイペースで時間を楽しんでいる感じがする。
 開業して十年、ちゃんとしているから、お客さんも多いと思う。だが、何より「自分を優先」している姿勢が好感がもてる。むりなスケジュールをたてない。この頃は、ウクレレを弾くのに凝っているらしい。
 四十代くらいだろうか、坊主頭で、若々しい。ほんとに若いころは、ボクシングをやっていたらしい。
「よくあんな恐ろしいことをしてましたよ」と言う。

 かなりストイックな人で、かなり健康面に気をつけている。食べ物から、生活面から── とにかくその基本は「自分が楽しむこと」にあるようだ。
 そして確かに、その施術は効く。術後、白湯(さゆ)を必ず出されるのだが、それが無性に美味しい。ただのお湯だそうだが、身体がリセットされると、ただのお湯も美味しくなるんでしょうね、とふつうに言う。

 三日前に行って、一時間半、居たか。
 おかげで一昨日、昨日と、よく眠れた。
「施術して、元気になってくれることがほんとうに嬉しい」という。
 定期的に、メンテナンスした方がいいでしょうか、と聞くと、商売としてはその方がいいが、かめさんの場合はそんな必要はないと思う、との答え。
 で、こういう体操を毎日するといいですよ、と教えられる。

 まだ、完全復調とはいかないが、教えられた体操をよくして、「自分第一」でその日その日を暮らしていこう。楽しんで。
 自分の身は、自分でなんとかしなければ。時間はかかるけど、それは仕方ない。たっぷり時間をかけて、どうしたわけか今ここに生きてんだから。
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