第273話 タバコ屋(2)

文字数 569文字

 ああ、暑い。往復一時間、歩いてタバコ屋へ向かう。

「暑いですねえ」とお姉さん。「気をつけて下さいね」

「あ、ありがとうございます。(お姉さんは)大丈夫ですか?」

 はい、大丈夫です。

 お強いですねえ、と笑って言う。

「よく食べて、よく寝て…」

「あ、基本に忠実に」

「はい、欲望のままに」

「あ、何よりです」と笑って応えたら、あはは、とほんとに可笑しそうに笑われた。

 お姉さんはいつもこちらを真っ直ぐ見て話すので、私は何となく目を伏せて話している。

 でも、一緒に笑い合ったりする時や、「どうもありがとうございます」「どうもありがとうございます」と最後に言い合う時は、おたがい目を合わせて笑顔のままに別れる。

 素敵なお姉さんである。

 相手の目を見て応対するお店の人は、少ない気がする。

 スーパーでも、ほとんどのレジの人が客と目を合わせない。「レジ袋は大丈夫ですか」とか訊く時ぐらい、下を向いていなくてもいいんじゃないかと思う。感じのいいレジの人は、大抵こちらを見て接してくれる。こちらとしても気持ちがいい。

 それにしても、「はい、欲望のままに…」と、こちらを真っ直ぐ見て言われた時は、ちょっと本気で笑ってしまった。(一瞬、よからぬ方の「欲望」のことが頭をよぎった)

 とにかくマイペースで時間を過ごされているようで、ほんとに何よりだと思う。

 しかし暑い。
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