第2話 考えられること

文字数 1,887文字

「侵攻」を続ける国があり、それをされる国がある。こうなる前に、

できなかったか、侵攻をされる国の為政者は、とおもう。その国の人が、危険に晒されることを、避けることはできなかったかとおもう。民を守ることが、国のあるじの仕事であるとするならば…。
 多少のウソ、どこぞの国の政治家の得意な「根回し」をしてでも、戦争にならぬため、民を守るため、そうできなかったろうかとおもう。「良心」に逆らってでも、戦争が起きぬためであれば、少し狡猾な手を使ったとしても、オテントウサマは、赦してくれるんじゃないかと思いたい。
 今起きている戦争が、なぜ起こったのか、僕はほんとうのところを知らない。
 侵攻をうける国のトップは、西欧へ身を寄せたい。かの国からの干渉は受けたくないとした。それが気に入らぬ、かの国のトップが、「いうことをきけ」と言ってきた。「もし聞かなければ攻撃をする」と、脅しをかけてきた。
 もしそうだとするなら、脅しをかけられた時点で、ネコをかぶって、言うことを聞くフリをして、まわりに、「今こんな情況だ、助けてほしい」と暗々裡に手を打つとか、できなかったものか。かの国のトップを欺くことになるが、平気で人を「消す」ような人間であることは、まわりも知っていたはずだ。

 侵攻をうける国に、武器を供給する国がある。供給された国のトップが、「たすかる、感謝する」などという。僕は異和感をおぼえる。武器を供給? 人を殺す道具じゃないか。
 そんなにまでして、「国」は守らなければならないものなのか?
 爆弾を落とし、戦車を走らせることが、もう、ダメじゃないか。殺傷し合うことが、最悪のことではないのか。戦って、どうする。 逃げろ、逃げさせろ。壊れた町、家、思い出の場所は、もう、元のかたちに戻らないかもしれないけれど、つくりなおすために、いろんな国がお金を支援している── 思い出を抱ける、あなたの、あなた自身のいのちが、失われてはいけない…
 それでも、この地に残りたいなら、なるべく、こちらの考えを言って、説得、あるいは、相手の意思を尊重して…。
 うまく、いつわりの「交渉」をして、時間をかせいでいる間に、ひとを、避難させておれば、などと想ってしまった。

 町を破壊するよう命じられ、その通りに動く兵隊たちも、犠牲者だとおもう。ほんとうに、何のために、そんなことをしているのか、僕にはどうしても分からない。
「法」というものに、あまりに重きをおきすぎているようにも思う。約束とか、契約とか、キマリゴトで、ひとを、平和に縛ったところで、それは婚姻届や誓約書のような単なるカタチではないのか。
「中国思想史」で、戦乱時代、荒んだ世を法律で「正そう」とした「法家」がいた。だが、むしろ法をかいくぐり、悪知恵をもつ者が蔓延って世は乱れ、何より民が反発し、法家は短命に終わったのではなかったか。
 カタチに従う前に、人には徳が、すなわち「正しい」かどうかの判断の可能な、正しい道への選択をするちからが、人には、備わっているはずだ。その道を、かぼそくさせるのは、功名心、名誉欲、所有欲、正体不明の、こころ?

 平和をうたう条約に、多くの国のトップがサインし、ニコニコとカメラ目線で握手したところで、それに加わらない国は疎外されてしまう。
 宗教、慣習、考え方の違いがある以上、みんながみんな、同じ方向を向くわけにいかない。
 尊重するということ。違うということを、認めること。そこから、おたがいの考えをあらわし合い、どんなに時間がかかっても、我慢強く、おたがいにとって「よい」と判断、理解できるところまで、対話を続けていくこと。
 人間に生まれた以上、この「言葉」を橋渡しに、やっていくしかないのだろうか。
 これは、国と国なんかに限らず、ふだんの日々のなかに、よく思えることだ。夫婦、子と親、上司部下、他者と交わる自己。自己と交わる他者。つまり、関係、対話。僕が、最もニガテとするものだ…。

 こないだ、日めくりカレンダーをめくった。そこにあった格言に、「わが身を立たそうとするならば、まず、まわりを立てよ」。そんな意味のことが書かれてあった。
 僕は、心うたれた。そう、自分が、自分ガー、と、ガばかり張っても、ダメなのだ。
 いがみあい、険悪な、ササクレだった関係。そこには、きっと、ばかりがある。なるべく、謙虚に生きたいと、切に思った。
「目に見えるものだけを見ようとする者── そいつは、(めくら)だ」というニュアンスの、漱石の言葉も思い出す。
 言葉も、その見えるもの「だけ」なのだとしても。
 それでも
 それでも、なのだ。
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