第280話 名前

文字数 886文字

 明日でもう一週間が経つ。信じられない。

 10日に報せを受けて、12日に板橋に行った。夕食会。

 13日、お葬式。初七日?も合わせてやったと思う。火葬場にも行った。兄と二人で、タクシーで帰って来た。お姉さんも、遺骨になって、一緒に。

 14日、11時15分頃に家を出て、板橋駅に行き… 奈良に帰って来た。

 そして昨日、ちょっと英子と口喧嘩みたいなことになって、でも伝えたいことは伝えられて、何となく和解して寝たんだっけ。

 そして今日が16日か。

 うん、正確だ。日にち、時間は正確だ。夕食会の後、みんながいなくなって、兄とビールを飲んで。ドストエフスキー、椎名麟三の話、面白かったなあ! お兄さんも本気で笑ってた。

 次の日は、もう疲れていて、二人ともさっさと寝た。萌子ちゃんが夕方来た。いろんな話ができた。

 そう、元司くんも立派になった。ほんとに立派になった。上背は僕と同じ位だが、堂々として、ニコニコ(ニヤニヤ?)して、25年前と、ちょっとはにかみながら笑うところ、でもチャンと、しっかりしているようなところは変わっていなかった。

 いろんな人、といってもお姉さんの兄弟、元司くんの家族、萌子ちゃんの家族、…ぐらいとしか会っていないが。

 子ども達が、遊んでくれたのが嬉しかった。まだ俺、子ども達と遊べるんだ… 朔太郎君、しゅうじろう君、しんざぶろう君。まもる君。

 お葬式の時、「キレイドコロが来るわよ」みたいに萌子ちゃんが教えてくれたが、確かに綺麗なひとがいた。あのひとは、誰だったんだろう?

 元司くんが、「充くんは…」って呼んでくれるのが嬉しかったなあ!

「叔父さん」でなく。お姉さんが、きっと「充くんはね、」とか僕のことを言って話すのを、元司くん聞いていたんだろう。

 そう、名前で呼ぶのがいいよな! おにいさん、おねえさん、おかあさん、おとうさん… そんな「立場」になる前に、一人の、一つの、名前を持つ人間だったんだから。いや、どんな立場になっても、それは変わらないんだと思う。何より、ややこしいよ、僕にとっては「お兄さん」だけど、元司くん達にとっては「お父さん」なんだから。
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