第98話 宗教のこと

文字数 1,903文字

 宗教。
 政治と、なんたら教会とかいう団体の関係が、ずいぶん問題になっている。
 宗教というと、あまり良いイメージはない。何か、コワイのだ。「信心」している人は、別世界に生きているような気がして、自動的に、警戒心からか、そういう人と距離を置いてしまう。
 これは、何なんだろうと思う。
 自分にも、宗教的なものを信じているフシはある。何で生きているんだろうとか、人生のようなもの、その意味を考えようとする時、宗教的なものが自分に芽生える気配は感じる。
 だが、それはあくまで「的」なもので、誰か特定の人物を神のように崇めるとか、絶対的に、あるものを一心不乱に信仰する、そういう類いのものではない。

 宗教で、いちばん怖いと感じるのは、自己が失われてしまうことだ。
 これは、こどもの頃、自転車で「巣鴨のお地蔵様」にお参りに行っていたとき、感じていた。「おじいさんおばあさんの原宿」と呼ばれ、特にキケンな宗教色もない、単なるお地蔵さんである。
 ぼくはただ、早起きして、そのお寺さん(有名なお地蔵さんは、高岩寺というお寺なのだった)に行き、お坊さんたちに合わせて、その時間一般に開放されていた堂の横の座敷でお経をよんでいた。
 早起きが気持ち良かったし、お坊さんたちと一緒にお経をよむことが、何となく神聖な気分になったからだった。
 だが、お寺さんを出て、家に帰ると、「ここが現実なんだ」というような気になった。
 というか、「親がしないことを自分がしている」=親と自分に距離ができている、という、そんな差異、違和感のようなものを、親と自分のあいだに感じた、というのが正確だ。
 べつに、親は「あんなところ行くな」などと言わない。親は無宗教、家のお墓が浄土宗のお寺にあるから、浄土宗といえば浄土宗だが、それはただお墓がそこにあるというだけの話で、日常生活で宗教とは全く無縁だった。

 だが、ぼくは何だか不安になった。親は、ぼくのことをどう思っているのだろう? 親から見れば、ぼくはお地蔵さんを「信じている」ように見えるだろう。
 自分では、「信じている」のかどうか、わからなかった。ただ早朝に、お寺さんに行って、座敷に上がってお経をよむ、これが好きだっただけだ。
 ぼくは、親に、ぼくが「お地蔵さんを信じている」と思われることが怖かった。
 で、ぼくは親に、こんな弁解(?)をしていた。
「お地蔵さんは、自分の後ろにいてほしい。お地蔵さんがぼくの前にいて、それに向かうのでなく、あくまで、ぼくが前にいて、お地蔵さんはあとからくっついてくるんだ」
 小学六年だったぼくは、うまく説明できないなぁ、と感じながら、母に、一生懸命説明していた。
 あの時ぼくが言いたかったのは、「自分があくまで主であって、神仏的なものは従である」とでもいうことだった。

 人間がカミを、ホトケをつくった、というのは、今もぼくは「信じている」。人間が、「主」であると思う。そして人間は、個々から成り立っている。個々とは、自己である。その自己が、神仏的なものに「乗っ取られる」こと、つまり自分で何か考えることをせず、ただ「従っていればいい」という、そんな思考回路… 回路すら無さそうな思考、思考とさえ呼べない、そんなところにぼくはほんとうのキケンを感じる、と言ってしまえる。
 ましてや政治家、為政者が、マザーなんとかとか、わけのわからない存在と、浅くない関係があったとすれば、市井の現実が、この実生活が、その実在する影のドン的な宗教家の思想に染められてしまう。
 たぶんその教祖サマは、そうとうお金をお持ちなのだろう。そして「信者」をたくさんお持ちで、だから権力も相当に強く、政治家もその力を借りて、選挙なんかで勝つために、関係をふかめていったのだろう。

「信じる者は救われる」は、ほんとうだろう。
 だが、当人が救われても、まわりに迷惑、いやな思いをさせるのは、あまりに身勝手だ。

 元首相が撃たれて、初めてこんな、ナントカ教会と政治家の関係が明るみになって、だからといって、あんな暴力的なことが許容されるべきじゃない。偶然、必然が重なって、意図せずして、あれよあれよと、そうなった。
 だが、「そうなった」からには、原因がある。そうなった、過程がある。
 それを検証、善悪というのはどうしてもあるのだから、なるべく、わるくない社会、わるくない方向へ行くために、検証すること…そんなところに、未来に繋がる希望が見い出せそうだ。
 でも、きっと権力を握っている政治家はそんなことしないだろう。
 何のために、国会って、あるんだろうと思う。

 宗教の話だった。
 また、わけのわからん話になった。
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