第372話 予定

文字数 1,176文字

 15日から実家に行く予定で、連絡もしていたが、やめた。先月も行っている、先々月も、その前の月も行っている。来月か再来月に行くことは確実に決まっている。
 延期でいい? 来月か再来月、必ず行きます。兄も、何となく感じていたのか、あ、いいですよ。それまで、お元気で! はい、なんとか。笑い。
 僕は兄を尊敬している。といって、憧れている間は、そうなれないことも知っている。だから僕は僕として── 頼りない僕として、兄と接する。そうしたいと思う。尊敬の意を肝の底に持ちながら。
 前記した大谷翔平のことで思い出したことあり。いつかも書いたことだ。銭湯のテレビで、ノーベル賞だかを受賞した人が出ていて、視聴者の親から「どうしたら自分の子は(あなたのように)そうなれますか」的な質問が。
 なんで親はこうなるんだろう、とゲンナリした思い。
「成功者」とか「優秀者」とか。ほんとに、ばかかと思う。
 ああなろう、ああさせたい、などという時点で、もう。

 そりゃ人間はいつか死ぬ。人間に限った話でない。兄も死ぬ、私のパートナーも死ぬ、私も死ぬ。だからといって、その死に怯え、生きてる間にと、時間に追われるように急かなくてもいいと思う。
 単純に、ムリをすることがいちばんいけないのだ。自分に対して、他者に対して、時間に対して、あるものに対して。
 生きていることは、ほんとうに夢のような、一瞬の、うたかただ。それだけで、全くいい筈なのだ。誰のようになろうとか、そんな思いは今の自分を否定する。そんな思いは、薄く、浅はかでよい。そのような思いは、一瞬の上に表面張力した、かげろうのようなものだ。それはそれで、そこにあるのだからヨシ。あれはあれだな、と。

 時点というものがある。その時の点。その点が連なっている、いくにすぎない。あまりにもその点と点が、かけ離れすぎてはいけない。
 一定の距離は、すでに出来上がっている… 意図的でも恣意的でもなく、おのずと。自然に。もう、そうなっているのだ。
 そこで、やっていけばいいのだ。こんぐらかして、からみあってほつれあう糸団子にすることはない、その必要はない。毛の先ほどもない、すでに毛はある。先をどうこう、手を加えなくても。
 もし、もう会えなくなったら、あああの時が最後だったのかとなるだろう。その繰り返しなのだ。
 後悔も、その時点だ。した時も、する時も。その点は、もはや。生まれた時も、死ぬ時も。そのあいだの時も。
 来月か再来月、それまでお元気で! 心から言った、自然に出てきた、出そうとして出した言葉でなかった。
 そんなふうに、生きてったらいい。何事にも、そうやって。予定も、過去になった予定も。終わったことも、先のことも。点点点、点の、時の繋がり…そいつはけっして重ならない、過ぎ行く中の、点として。時間の点として、存在としての点として。
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