第302話 もともと不完全な嘘だとしても

文字数 658文字

 嘘が嘘として通用するほど、ヨノナカ・アマクナイ、とされた時代もあったらしいが。

 嘘が嘘としてまかり通る時代になったようだ。

 と書く自分が不完全なカタマリであるから、結局嘘で装飾をして、どんどん上塗りを重ね、存在を立たせている── 私も、嘘で固められた虚人なのかもしれない。

 何か、言わねばならぬから。考えねばならぬから。これも、嘘なんだよな。「ねばならぬ」なんて。

 どうしたわけか、そうなってしまっているだけで。

「嘘=悪」も、考えもので。

 たとえば他人どうしは優しい。ラジオなんかでも、ゲストでスタジオに来た人に、進行役は優しく応対する。互いに気を使い、笑い合い、「聞かれてる」意識も手伝って、いかにも和気あいあいとした関係と時間を演出する。

 スタジオから離れ、のちに「プライベート」になったなら、その相手との関係も微妙に変化するだろう。

 すると、あの時間は嘘で、後の時間が本当なのだろうか。私はあの番組を楽しく聞いていたから、ああ、あんなふうに笑って、楽しく、うなずきあって会話のできる関係に憧れたりした。

 で、自分もあの進行役のような態度で、家人と接しようとしたが、ムリだった。長く続かない。疲れてしまう。あれは、あくまで番組の中の、仕事上の関係で、そこから生まれた「和気あいあい」なのだろうと思った。

 どっちが虚偽、どっちが真為、というものでもないんだろう。ただ、前記した政治家の言葉に限れば、なぜだか「許せない」嘘の上に立っている、と思えてしまう。

 何なんだろう、この「許せなさ」と「許せる」感じの違いは。
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