第45話 「文章」と「作品」

文字数 1,625文字

 こんな作品を書きました、などと言うと、小っ恥ずかしくて、文を書きました、なら言うことができた。
 が、ここ数日、二つのコンテストに応募して、自分は作品を書きました、と言えるようになった気がするのはどうしたわけだろう?
 一応課題が与えられ、その課題が作品中に入っていればいい(ムッ、「盛り込んで」「要素として登場していれば」と応募事項にある。そんな盛り込んでいなかったし、要素というほど強い位置にそれを立たせなかったが、大丈夫だろうか)ということで、自由に好きなように書けばよい、というコンテストではない。
 ただその「縛り」があることで、それを基点に物語をつくることができる。どう、そのお題に関連づけて5000字にまとめるか。これは、面白い、でも難しい、慣れない方向へ思考を働かせる作業になる。

 で、考える。ムリだ、と思う。が、せっかく募集しているのだから応募したい。とにかく書こうとした。そして書いていると、何か繋がっていくものが発見されたような気になって、とりあえず書き進める。お題はクリアした、と思う。だが肝心な「物語」としての芯が見つからない。ここで立ち往生することになる。
 机に張り付いているだけでは、いいことなさそうだから、家人に何か冗談をいったり庭に出て雑草をむしったりして、書くことを忘れる。また部屋に戻ろうとして、「芯」のことを思い出す。そのとき、心に余裕でもできたのか、あ、こういうラストを目指そう、とイメージが絵みたいに浮かぶ。第1回のコンテストでもそうだったが、そんなふうにして書き進めた。
 でも最後の場面が決まっていても、そこに至るまでの道程がある。進むうちに、流れが違う方向へ行く。ラストに至るまで、読者(審査員)に読んでもらわねばならない。途中でつまらなかったら、そこできっと読むのを断念されかねない。
 自分の理想最終図から逆算して書くほど、そんな結末にこだわらなくてもいいように思えてくる。が、流れにまかせるだけではまとまりがない。紆余曲折、めんどくさいからもうやめようかなと思うが、ここまで来たらもう完成させないと悔しい気になっている。

 と、こんな感じで二、三日、椎名麟三を「写経」しながら、応募作に向っていた。
 今まで応募した賞といえば、集英社のノンフィクション賞、小学館だったか小学五、六年に向けた小説賞、雑誌「文学界」の新人賞、この三つほどで、もちろん一次選考にもカスらなかった。
 書いているそばから、こりゃダメだな、と確かな手ごたえを感じていた。小説、というものの形式に捉われて、それに合わせよう合わせようとして、小説とは何かも知らないくせに、「小説を書く」ということを目的に書いていた。自己、というものが不在に等しかった。
 もう、自分のいいたいことだけ書こう、となったのは、投稿小説サイトのおかげだと思う。気軽に書けてしまうから、そのぶん「作品をつくっている」という意識が希薄になって、人様に見せるのだから「作品」を書こうとはしていたけれど、やはり甘えというか希薄さがあったことは否めない。

 だが、応募作となると、全然書く姿勢が違った。何回も読み返したり、ふさわしい言葉を探し回った。文脈、いいたいことが突然でてきて前後の文と異和感はないか。会話が長くないかとか同じ表現を繰り返していないかとか、微に入り細に入りチェックすることになる。
 で、思わぬ言葉が急にでてきたりして、あ、これで全体的に落ち着くな、と嬉しくなってまた書き直し、自己満足して終わるという行程。
 そして時間が経って冷静に見れば、ナンジャコリャ、と、たいていなる。でも、「作品」をつくったんだ、と思う。
 へたな比喩だが、部屋で栽培していた植物の鉢を、日にあててやろう、と外へ持っていく行為に似ている。菊とか牡丹(ボタン)とか、育てて咲かせた花を品評会に出品するって、こんな気持ちなのかなと思う。
 とにかく、作品を書いた。書けただけで、嬉しかったりする。
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