第6話 小旅行記(3)

文字数 1,509文字

 翌朝、大宮のホテルを出て、板橋に行って、お墓参りをした。どうせなら兄、兄嫁とも会いたかったが、コロナが落ち着かないと、ためらわれる。もう二年以上、会っていない…
 墓地の塀沿いに、大きな、白と紫のモクレンの花。いっぱい咲いていて、ほんとに綺麗だった。
 父94、母88、長男18、祖母、祖父…お墓の側面に、亡くなった年月日、年齢が彫られている。知らない名前もある。この人は、誰なんだろう。
 左隣りはどなたのお墓もなく、サラ地の状態。あとはびっしり、〇〇家の墓、と並ぶ。区画整理された、死後の住まい… 人間は、死んだ後も、近所づきあいがあるのかなと思った。
 兄がお参りでもしたのか、サカキ?が、お墓に固定される花入れのコップに。まわりのお墓にも、黄色や赤の花が。
 こどもの頃、両親と来たとき、「しばらくぶりですねえ」とか言って、母がお墓の上から、杓子で水を掛けていた。その母が、ここに眠っている。
 昭和〇年、建立、と、父の名が、お墓の裏には、彫られていた。おムコさんに来た父が、しっかり働いて、「建て直し」たんだ。立派なお墓だと思う。父も、立派な人だったと思う。それにくらべて、このオレは…。
 大迷惑をかけたことを、いつも思う。すると、自動的に泣いてしまう。父母の死が、悲しいのでは、きっと、ない。父母が、生きているあいだ、何も、できなかったような自分が。祖母にも、僕は、ひどい子どもだった。

 手桶の水を、杓子で取って、お墓の上から水を掛け、すみませんでした、ありがとうございます、ぶつぶつ言って、独り言。
 しかし、ほんとうに、涙は不思議と思う。悲しい、は、あるけれど、怒りとか、悔しさとか、わけのわからない感情が。何か胸のなかに詰まったものが、溢れるのかな。プッ、と、最初に泣くと、あとからどんどん、あふれてくる。
 ああ、ひとり、だからだな。いつも、誰かと一緒に来ていた。ひとりで、こうしてお墓に向かってるからだ、と思った。
 たぶん兄があげた、お線香が、半分、燃え尽きないで残って。お墓には小さなお線香の家があって、石の屋根もあるけれど、雨でも降ったのか、シケっちゃったのか。ライターで、じーっとつけた。
 ああ、終わった、終わった。お寺の入り口に、チャンとした喫煙所。タバコを吸って、落ち着いて、お寺の歴史みたいなのが書かれた立て札を読んだりする。
 心の問題だよな、と思う。お墓があるということ。

 前、ここに来た時、幼なじみのKちゃんと、40年ぶり位に会ったっけ。あの、一緒に入った喫茶店はよかった。私鉄のほうに行って、街並みを懐かしみながら歩いたが、あの喫茶店はもう無くなっていた。コロナの影響か… 全席喫煙可の、喫茶店らしい、いい喫茶店だった。
 JRに戻って、新幹線の切符を買い、赤羽駅へ。ツレアイと無事合流し、また電車に乗って、東京駅。京都に着いて、奈良に着く。

 僕は、何のために生きているんだろう、と、やっぱりおもう。ずっと、おもってきた、ともおもう。たぶん死ぬまで、おもおうとおもえば、おもうんだろうな、とおもう。
 これでよかった、なんて、納得できることなんて、ないような気がする。

 しかし… また、行こうと思う。埼玉、東京。奈良に着いて、人が、少ないなと思った。鹿はいてくれるけど、人、対人関係で、あんまりイイこと、ないナ。ごみごみした都会のほうが、そのぶん人に気を遣って、繊細な感じの人が多くなるのかな。とりあえず東京に育って、イナカ?のズーズーしさみたいなところが、なんか、なぁ。
 となりの芝生、となりの芝生。ないものねだりの、子守歌。
 パラダイスは、自分でつくろう。

 三泊四日の、関東滞在記、でした。…
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