第55話 雨宿り

文字数 1,236文字

 さだまさしか。(古いネ)
 まぁいいや、このまま続けよう… 結局きのう銭湯に行く途中、どしゃ降り雨。
 ちょうどスーパーの前に来たところで豪雨になったので、店の軒下で雨宿り。
 30分位、いたろうか。なんか悪いので、店の中でタバコも買った。
 で喫煙所(軒下)に行くと、知らない婦人も雨宿り。ほんとにどしゃ降り雨で、なかなかやまない。同じく「宿っていた」一人二人も、ついに傘を開き、大雨の中、歩き出す。
 と、「なかなかやみませんね」と婦人から声を掛けられた。
「そうですねえ」と、意味もなく(気が弱いという意味はあるが)笑って応える。
 話し掛けられた→ 応えた→ 、こんどは僕が何か話すべきだろう、と思った。
 だが、何を話したらいいのか分からない。
 とにかく僕は早く銭湯に行きたいのだ。走れば、あと五分以内に着けると思う。家のことも心配になる。前住人は床下浸水の憂き目に遭っている。
 不本意な雨宿り。そして全然知らない人と話をする。一体、何を話せばいいんだろう?

 笑っていたい自分としては、笑って接したい。だが意味もなく笑う男は、不審人物、頭のおかしなヤツ、というふうにもなるように思える。ばかげた事件の起きた、昨日の今日だ。
 もうすぐやむんじゃないですかね、分かんないけど、とやはり意味のないことを僕が笑って言う。
 うーん… と婦人。そりゃ分からんわな。

 そのうち婦人は雨合羽を羽織り、僕の目の前にあったオートバイに乗る準備をはじめた。
「あ、行かれますか、行きますか」やっぱり笑って僕が言う。どうしようもない。
「え?」婦人が言う。豪雨の音で、よく聞こえない。自分もさっき、相手が何か言ったのを、適当に受け流してしまった。
 しかしやっと小雨になりそうな気配がしたので、傘を開いて僕は逃げるように、でも何となく半端な会釈して歩き始めた。
 信号待ちをしていたら、さっきの婦人がさっそうと走っていった… それだけの話。

 いわゆる世間話、何でもないような話ができない。人が、嫌いなわけではない。いろいろ話したいと思う。でも、何を話したらいいのか分からない。そういうことがよくある。自意識過剰なんだろうなと思う。いや、それより、単純に、何を話せばいいのか分からない。
 単純に、何か話せばいいと思うのだが。

 こういうところが、ほんとに苦手だ。
 結局家を出て約一時間後に銭湯に到着。久しぶりの川端康成(に似た主人)のいる番台に挨拶、タオルを借りる、脱衣所に行く。
 湯船の中には先客が一人。広い浴場内、ほかに誰もいない。何か話しかけたほうがいいのかなと一瞬思ったが、先方は目をつむっていたので、僕も目をつむった。

 処世術みたいなものの、容量。何でもないような会話を、何でもないようにできるようになるには、どうしたらいいんだろうと真剣に思う。
 その貯蔵庫のようなものが、ほんとに自分は茫漠としている。
 こんなんじゃ、やっていけない、と思う。

 今日もヘリコプターが飛んでいる。今日も銭湯、行こうかな。
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