第71話 初志不貫徹?

文字数 1,288文字

 考えてみれば、あの疫病が輸入された頃、島国なのだから、その際《きわ》で止めることができただろう、という意見がよく散見されたものだ。ソウダソウダ、とぼくも思った。
 いつのまにか、寛大な人たちは、あれは仕方ない、未知のものであったし、誰が為政者であっても同じ結果になったろう、もう、止められやしないのだ、と考えるようになった。ぼくもしばらく、そんなふうに考えていた。withしかない 。ゼロなんかムリだと。

 が、自分に引きつけて考えてみる。現場仕事、製造業に携わってきたぼくは、不良品の流出をおそれた。お客さんに迷惑がかかるし、エンジンは人の命に直結する持ち場だったからだ。で、ゼロを目指した。それでも、ミスは出てしまう。ゼロを目指して、やっとゼロに近づける、というふうな(てい)だった。
 あの時の為政は、そんなふうに仕事をしていなかった、といえると思う。あの五輪さえやろうとし、実際にやり、たまたま感染が爆発しなかっただけで、今ものうのうと権力の座に居座っている。
 自分の言葉で語ろうとせず、とりまきから与えられた口述ばかりを繰り返し、これがこの国のトップなのかとあきれ果てたものだった。

 そして何も変わらなかった。顔がすげ替わっただけで、やっていることは同じである。堅実なサラリーマンよろしく、何の特徴もない。あの無気力な、死魚の眼をした前任者より下をいくことは難しい。
 驚くべきは、「シモジモの皆さん」と平気で言い、一度はトップに立ったが選挙の惨敗から辞任し、もう80をすぎたというのにその人が今も副総理の地位におり、ボロ儲けしているという現状。
 この副総理という立場、「辞令等に記載される正式な官職名ではない」(ウィキペディア)ということで、おもてだって登場はしない。だが、あの無特徴の首相が倒れた場合、またあの少し口の曲がった人が代理に立つという現実が待っている。
 もっともっと、自分の言葉で語らせない、答弁の用紙を用意する、からくり人形をあやつる「上々の皆さん」がたくさんいらっしゃることだろう。

 仕事は、ひとさまの役に立つ、というところで、製造業だろうが3Kの仕事だろうがレジ打ちであろうが、同じであると思う。
 (まつりごと)という、もっともひとさまに直結する、大きな仕事に携えることに、何のやり甲斐も見い出せず、プライドといえばただの肩書きであることが、政治家という職種の内実か。

 内輪話で申し訳ないが、ぼくの父は、若いころ、総理大臣になりたかったらしい。その性格上、やり甲斐のある仕事がしたい、という念が強かったように思われる。もし政界に入ったら、汚されてしまったかもしれないが、そんな志を一度でも、最初の期間だけでも、政治家になろうとし、現になっている人は、持った時間があったろうと思いたい。
 そんな気持ちが、もし今もあったなら… こんなに感染者も増えていなかった、かもしれない。
 i f 、はないかもしれないが、あのときの為政者たちの仕事ぶりは…。
「あんた、いい仕事したよ」と、いま権力を握っている人々から、そう言えるようなことを、少なくともぼくはあまり、感じたことがない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み